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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第2章 仕方のない問題
 ローゼルと結婚する相手は、後継者であるローゼルの婿に入るという意味を、きちんと弁えられる人間でなくてはなりません。間違っても、結婚によって自分が後継者になれるかもしれない等と考える様な人間で有ってくれては困るのです。
 そういう意味では、どんなに暴虐の限りを尽くされようとも人生のほとんど全てである三十年近い長い年月ローゼルに仕え続けたビスカスは、婿としては理想的でありました。ビスカス自身よりもローゼルを優先し、ローゼル自身よりもローゼルを尊重しているビスカスは、夫になったとしても現在護衛兼御付として行っているのと同じ様に、ローゼルの邪魔をせず、上手く機嫌を取り、人との間の仲立ちを行い、何においても自分を投げ打って、ひたすら尽くし助け続ける事でしょう。

 あとの問題は、長年主従関係だった二人が突然夫婦になったとして、果たして首尾良く子作りが出来るのかという事位です。
 その点も、身持ちが固くて潔癖で初心なままこの年まで来てしまったローゼルが、人目が有るのも構わずにビスカスと口づけを交わしていたと聞いた今では、心配は無さそうに思えます。
 ローゼルがビスカスを本当に好いているかどうかは疑わしくとも、少なくとも口づけを交わすのを嫌がらぬ程度に想っては居るのです。それならば、普段から隙あらば会話に下ネタをぶち込んでくる様なビスカスとの子作りに、問題が有るとは思えません。

「……この際、仕方あるまい……」
「認めざるを得ないか……」
「止むを得ないな……」

 クロウの言葉を聞いて考えに考えた末、父親と兄達は、「決して嬉しくは無いが大変に喜ばしい」という複雑な気持ちで、ローゼルとビスカスの婚約をとりあえず認める事になりました。…………

 ……認められは、したのでしたが。


     *     *     *


「お帰り、ローゼル」

 ビスカスの看病の為にサクナの家に泊まり込んでいたローゼルが、大変な剣幕で嵐の様に帰宅したと家令から聞いて、タンム卿は妹の部屋を訪れました。

「出て行って。」
「ご挨拶だな。一言くらい教えてくれても良いだろう?お前の婚約者殿の回復は、順調かい?」

 軽口めいて尋ねると、外出着のまま寝台にうつ伏せるという淑女にあるまじき姿で枕に顔を埋めていたローゼルは、かちんと固まりました。

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