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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
「まあまあ、笙子さん、お早うさん。
起きてはった?」
にこにこしながら志津と入って来たのは、兄嫁の道子であった。
「うちはまだお寝かせといたほうがよろしいんやないのてゆうたんやけど、お志津どんが…旦那様はとうにお起きになられたさかい、大丈夫やて…。
…あら、今起きたばかりやね?新婚二日目やもんねえ…そら眠いわなあ…。
千紘さんもいけずやなあ。こんなお姫様みたいな可憐な花嫁さんを毎晩寝かせんくらい可愛がってはるなんてねえ…。
ああ見えて千紘さん案外、精がお強いんやねえ…。
…ああら、いややわ!私ったらはしたない!堪忍な!」
ばんばんと志津の肩を叩きながら、自分が一番豪快に大笑いをする。

道子は船場の米問屋の娘だそうだ。
大店の次女としておおらかに明るく育てられたせいか、万事陽気で賑やかな性格だ。
子沢山も苦にならない様子で朝から晩まで子ども達と闊達に格闘しながらも、家の商いにも目を配っている。

繊維会社のほかに、岩倉家は昔ながらの職人を抱えた西陣織りの工房を経営している。
そこの職人の世話や商売に関して、番頭にも一目置かれているのは道子だった。

大店の娘として自然に備わっている商いの才覚と、朗らかな自信が道子から溢れていて、周りの人に安心感を与えるのだろう。
明け透けに物言いをしても、少しも下品にならないのは道子のからりとした陽気な性格のお陰なのかもしれない。

笙子はこの明るく元気な義姉がとても好きになっていた。
「お義姉様、お早うございます。お寝坊してしまって、すみません…」
頭を下げる笙子の手を取り、道子は陽気に次の間に導く。
「そんなんええねん。早起きしてもなんもすることあらへんがな。
…それよりも…これ、見とおみ」




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