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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
「…まあ…!これは…!」
次の間一面に広げられていたのは、絢爛豪華な京友禅の振袖と見事な帯の数々であった。
意匠を尽くした華やかな振袖に、笙子は目を見張った。

道子がにこにこしながら振袖に触れ、朗らかに口を開いた。
「これなあ、うちがここにお嫁に来た時に、実家のお父はんが作ってくれはったお振袖やねん。
けど、こんなん着る間も無く三つ子が生まれてなあ。
一息ついたと思うたら、茜が生まれたやろ?
お振袖着る暇もなかったねん」
「…あの…お振袖は、未婚の女性が着るものではないのですか?」

洋装で育った笙子には、着物の知識があまりない。
一ノ瀬の両親に女学校卒業の記念に作ってもらった加賀友禅の振袖は、実家に置いたままだ。
宝飾店という仕事柄、一ノ瀬の母も洋装が多かったのだ。

「最近はそうやねえ。けど、うちらのおばあちゃんなんかの話を聞くと、昔はええとこの御寮さんは結婚してから三年目くらいまではお振袖着て、お出かけしてたらしいねん。
綺麗なおべべ着せて、優雅に過ごさせやる甲斐性があるてみせる為やろな。
宮様なんかもそうやろ?
…せやからこの振袖、笙子さん着てくれへん?
これ、大振袖やないから仰々しくならへんし笙子さんに似合うと思うねん。
…うちはすっかり肥えてしもたし、三十過ぎてしもたし…。
茜が着るのに、二十年くらいかかるしなあ。
箪笥の肥やしになるの、惜しいねん」
そう言って道子は陽気に笑った。

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