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雨月喫茶のヒミツ
第1章 春の月* 泡沫に溺れる
都から少し外れた場所に雨月喫茶という喫茶店がある。

庭先には青く透き通った紫陽花が咲いている。この紫陽花は特別な品種で、季節や天候に左右されることもない。店主のお気に入りだ。

店内では店主である青年が紅茶を淹れている。

天気予報では雨が降らないと言っていたが、雨の香りがしたから、もうすぐ降りだすはずだ。


もうすぐ来る客のためにお茶の準備をしている。


そしてーーカランカラン。


少し雨に濡れた少女が現れた。高校の制服を着ていて、艶やかな長い黒髪が美しい。

「いらっしゃい。紅茶、どーぞ」

「翡翠……あとでいいわ」

「それはルールに反するから」

翡翠と呼ばれた青年は無言で着席を促す。少女は不服そうだったが、渋々従った。目の前には琥珀色の紅茶と焼いたばかりのクッキーが三種類ある。

「お砂糖」

「だめ」

「ケチ」

「ここは俺の店。客に調味料は必要ない」

木の香りと雨の香りに満たされたこの空間で、奇妙な沈黙が流れる。
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