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第12章 君に捧げる(2019母の日、1000エモ御礼)

「次に来れるのは、産まれた子が少し大きくなってからなので、しばらく先になりますけど……楽しみにしてて下さいね。その時にはもう、お母様はお祖母様ですから」
「リュリュがお伺いできねー間は、俺がご報告に参りやすよ。俺だけで申し訳ねーですけど」

　ローゼルはビスカスの言葉に嬉しそうに笑うと、花輪を手にとって、口付けました。

「……またね、お母様。日が傾くと寒くなるって、心配性のビスカスに、怒られるから」
「もう良んですか？」
「ええ。お母様は、ここだけじゃなくて、いつでも近くにいらっしゃるもの」

　ローゼルは微笑んで、ビスカスにぎゅっと抱き付きました。

「でも、来たかったの。幸せだから心配しないでって、言いたかったの」
「リュリュ……」

　ビスカスは、お腹に気を付けながら妻をぎゅっと抱き締めて、微笑みの形に開いた花片の様な唇に口付けました。

（……奥様。俺は奥様の宝物を、頂きました）

「ん……」

（こうなるまでは、俺なんかで良いのかって思う事も、有りましたけど……）

「……っふ……」

（こうやってリュリュのお腹に、すげー宝物も、授かったんで……んなふらふらした甘ったれた事ぁ、言えねー様になりました）

「……ぁ……」

（奥様の宝物も、宝物の宝物も、俺の精一杯で愛して、守って、幸せにしやす。奥様とのお約束は、必ず守りますから、どうぞ安心なすって下さい……俺の全ては、永遠に、ローゼルお嬢様にお捧げします）

「……んっ……お母様の前なのに」
「……誓いの口付けですよ？お許し下さるでしょ」

　長く深い口付けの間ビスカスが誓っていた事は、ローゼルには告げられませんでした。
　それは言葉で告げられるのではなく、二人の命の有る限り、永遠に粛々と実行される事でしょう。

「帰りましょ、ビスカス」
「へい……また参りやすね、奥様」
「またね、お母様。心配性の旦那様のお小言が帰りは少しは減ってくれる様に、見守っててね」
「……すいやせん……善処しやす……」

　こうしてまた小さな墓地は、初夏の静けさに包まれました。
　ひっそりと明るいその場所には、手向けられた花の芳しい香りが、いつまでも密やかに香り続けておりました。　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　【おしまい。】