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セイドレイ【完結】
第25章 暗転

こうして亜美と慎二は12月の寒空の下、外へ出た。
時刻はすでに20時30分を回っており、当然ながら辺りは真っ暗である。

全裸の上に羽織ったコートは、亜美の尻をギリギリ隠すほどの丈しかなく、歩くのにでさえ気を遣わなければならなかった。

一方の慎二は、それなりの寒さだというのに、亜美が贈ったスウェットのみの一張羅である。
むしろ彼にとってはそのくらいがちょうどいいのだろう。

「──寒いだろぉ?もっと俺にくっついてなよ!グヘヘッ…」

「は、はい…」

慎二は亜美の腰に手を回し、グッと引き寄せる。
亜美は慎二の腕にもたれかかり、カラダを密着させ、人通りの多い駅前を歩いていく──。

すれ違う人々の視線が痛い。
おそらく、2人を見かけたそのほとんどの者が──そのあまりに不釣り合いなカップルに目を丸くして二度見をしていたであろう。

しかし慎二は、そんな他人の視線などどこ吹く風と言った様子で、鼻歌混じりに通りを闊歩していた。

「──あの…ごしゅっ…慎二さん?まだ着かない感じでしょうか…?」

「ん~?せっかちだなぁ、亜美は!まだだよ~これから電車に乗るんだ。ていうか電車に乗るなんて何年ぶりかなぁ」

「でっ…電車ですかっ!?」

「ん?そぉだよ!もぉ~つべこべ言うなっ!」


そして、各鉄道路線が集中する本線の駅へと辿りついた2人──改札を抜け、ホームにて電車を待つ。
この時間、ちょうど帰宅時のラッシュと重なり、どの路線もかなり混雑している様子だった。

「──あの電車に乗るからね」

線路の向こうから、ホームへと入ってくる車両が見える。
やがて到着すると、それは明らかなまでに満員電車だった。

車両のドアが開き、下車する人が先に出てくる。
ほんの少し空いたスペースを目がけて、亜美と慎二は車両に乗り込む。

『閉まるドアにご注意くださ~い!』

駅員のアナウンスの中、駆け込み乗車によって車内はぎゅうぎゅう詰めとなっていた。

亜美はドア付近の角に立たされ、慎二がそこへ覆いかぶさるような格好となり、2人は向かい合う。

混雑した車両の中、その図体のせいで余分なスペースを占領している慎二に、ほかの乗客たちは迷惑そうな視線を送っていた。

しかもこのような混雑した空間では、冬であるにも関わらず慎二の汗臭さやワキガ臭がより際立ち、思わず鼻を覆う乗客さえいたのだった。


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