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セイドレイ【完結】
第28章 功罪
「…貴之っ!こんな時間までどこ出歩いてたんだ!?携帯かけても繋がらないし…心配したじゃないかっ!」

貴之が帰宅するなり、玄関で出迎えた父の俊之がそう怒鳴りつける。

「……ごめん。ちょっとジョギングしてたら遠くまで行き過ぎちゃって……」

「……ならいいんだが、あのな?さっき、新堂理事長から電話があって、お前の退学処分を取り消してくれるそうだ…!新学期からもこれまで通りで良いって…だから明日の話し合いもしなくてよくなった。じゃあ一体何だったんだって話だけど、とりあえず良かった!本当に…良かった……」

「え…?」

すると、リビングから母である紗枝も玄関へやってくる。

「貴之っ…本当に…本当に良かったわね……亜美ちゃんに感謝しないと……」

目にいっぱいの涙をボロボロこぼしながら、紗枝がそう言った。

「ちょ、ちょっと待ってよ!…亜美に感謝って…どういうこと?」

貴之は状況が飲み込めずにいた。
亜美に感謝も何も、亜美は今どこかへ消えてしまったというのにーー。

「…そうだぞ貴之。この前の話し合いの後、亜美ちゃんが武田さんと新堂さんにお願いしてくれたらしい。それで…お前と亜美ちゃんが今後も同じ学校に居るのが駄目だというなら、亜美ちゃんが留学する…って言ってくれたみたいなんだ。だからお前を退学させないでくれ、って…なんか前々から留学したい気持ちもあったらしいから、環境も変えたいし良い機会だから、ってな。お前、亜美ちゃんには本当に感謝しないとバチが当たるぞ…!」

嘘だ。

貴之は心の中でそう叫んだ。
亜美が留学したい?
そんな話、一言も聞いたことが無い。

仮にそれが本当だとして、どうして亜美が居なくなった後のこのタイミングでそれを伝えてきたのか。

しかも、電話をかけてきたのは雅彦ではなく、新堂だという。

そしてこの感じからするに、貴之の両親は亜美が行方不明であることを知らない。

何故そうまでして、亜美が居なくなったことを隠すのか。
健一や慎二だってそうだ。
亜美が行方不明だというのに、捜索願すら出している気配が無い。

やはりあの家には何かあるーー。

その疑念が貴之の中で確実なものに変わって行く。

泣いて喜ぶ紗枝に抱き締められながら、貴之はぼう然と立ち尽くしていた。
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