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せめて、今夜だけ…
第1章 ルール
「キョーコちゃんって言ったら我が社のマドンナだぞ!今まで何人の男が撃沈して来たか!」

興奮気味に俺に説教を垂れる桐谷だが、俺にとってはどうでもいい話だ。

社会人になってからの俺は、どうやらイケメンというジャンルに分類されているようだ。
実際にあの苦い失恋の後、卒業してからは女性関係に困るような事はなかった。
この会社に就職してからも、何人もの女性に告白されて来た。
しかし、俺は同じ会社の女とだけは付き合わない。

「魚塚ってまさか、ゲイ?」
「んなわけねぇだろ…」
「お前ぐらいのイケメンなら、女なんて選びたい放題だろ?」

選びたい放題でも、同じ会社の女には手を出さないと決めている。
後々揉めたくないし、会社内で顔を合わせるのも気まずいし、面倒な事は避けたいのだ。

「そんな事より、午後に回すって言ってたカナダへの発注の依頼書はどうした?」

興奮気味に説教を垂れていた桐谷を黙らせるために、わざと話を反らした。
これ以上ここで騒がれても迷惑だし、桐谷の大声のせいで受付嬢を振った事がいろんな奴にバレて恨みを買うのもごめんだし。

「あぁ、部長に届けたよ。いるところにはいるんだな、海外で家具を買うような金持ちが」

俺の会社は所謂外資系。
海外の家具を買い付けて日本で売るという仕事。
海外のアンティーク家具ともなれば値段も日本とは桁違いだ。
さすがに、安易に手の出せる額ではない。



会社の名前は『Bijoux』。
フランス語で宝石という意味だ。



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