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せめて、今夜だけ…
第18章 彼方
仕事帰りなのか、先輩はスーツ姿のままで片手にはスーパーの袋を持っていた。
それは、いつも見ていた先輩の姿だった。

「急な残業が入っちゃって。待たせてごめんなさい」

にこりと笑う先輩の笑顔も、いつもと変わらないものだった。
昨夜の出来事も気にしてないかのような笑顔。

「いえ、こちらこそ…」

こちらは心の準備が出来ていない。
それでなくとも、俺は昨夜先輩に失礼なことをしてしまったのだから。
意を決して先輩に聞いたはずなのに、今になってビビッてる。

「立ち話もなんだから、入っていいかしら?」
「あ、はい」

話しの内容的に立ち話で済むものではないだろう。
もしかしたら、長話になるかも知れない。
こんなところに先輩を立たせて置くのも申し訳ない。

「どうぞ」

俺はドアを全開にして先輩を招き入れた。

「お邪魔します」

いつもと変わらない先輩の様子に、俺は少しの安堵を覚えた。
もし、先輩の表情が少しでも雲っていたら、俺の心臓は保たなかっただろう。


先輩にあんな事をした翌日だというのに、俺の頭の中は自分勝手なことばかり。
そんな自分に吐き気を覚えた。






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