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せめて、今夜だけ…
第4章 飢餓
魚月自身も一応は覚えてるようだ。
俺の手を振り払った事を。

「初めてだろうが常連様だろうが、関係ないと思いますよ?」
「だからって…」


「どちらの対応が非礼だと思いますか?」
「………っ!」




眼鏡越しに見えた射るような目。
その目に見られた瞬間、まるで金縛りか催眠術のように、俺は口を継ぐんでしまった。

あれ…?
何でいつもみたいに冷静に対応出来ないんだ、俺。
そもそも、こんな女に声なんてかけることもなかっただろうに。

「女性がみんな、思い通りになる訳じゃないですよ?」
「な……っ!」

ニコッと笑った魚月は再び踵を返し歩き出して行く。

「おい、まだ話が…っ」

もう1度呼び止めようとしたが、さっきから大声を出しすぎたせいで周りの客がジロジロとこちらを見て来る。

くっそ、何なんだよ、あの女っ!
昨夜に続いて今日まで…っ、マジでムカつくっ!
あー、むしゃくしゃするっ!!



胸の奥のヒリつきがどんどん増して行く。
あの女のあの目を見た瞬間に心臓が真っ二つに割れたように痛み出した。
何なんだよ、これ…っ!
さっさと買い物を済ませて帰ろ…。




そう思い、俺も替刃を手に取り踵を返したところでハッとした。
俺の中に感じた妙な違和感。





あれ…?
ここ、シェービングコーナーだよな?
メンズコーナーだし、あいつが買ったのだって剃刀の替刃だ。


何であいつ、こんなコーナーに―――――…?









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