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せめて、今夜だけ…
第1章 ルール
煙草を吸いながら片手でスマホを弄り、さっきの女のメモリーを消却しようとした、が

「ミカ、だったっけ?ミキだったか…?」

さっきの女の名前、何だったかな?
それすらも覚えてねぇや。
今まで女の名前なんて真剣に覚えた事なんかない。
どうせ一時的、その場限りの関係なんだから。

「あー、もう、どれでもいいか…」

スマホの中には数人の女の名前。
2度と会わないと決めて消却した女の名前の数も覚えてない。
顔すら覚えてない始末。
会わないと決めたらさっさと消す。
未練があるみたいで残したくないから。


唯一、覚えてる女の名前と顔は…


『魚塚君』


記憶の隅っこに今もある、あの先輩の顔だけだ。
俺の名前を呼ぶあの甘い声と、あの笑顔だけ。




別に忘れられないとかじゃない。
ただ思春期という多感な時期の恋は猛烈に脳裏に焼き付いている。
あれから先輩とは会ってないし、どこで何をしてるのかも知らない。
今頃、どっかの男と結婚して幸せに暮らしてるのだろう。

先輩も、今の俺を見たら幻滅するだろうな。
つまらないと言って振った男が、まさかこんな最低な男に成り下がってるのだから。


この部屋と俺の身体に染み付いているさっきの女の香水の香りがきつ過ぎて
それが鼻について嫌な気分だったが
今はその香りが俺を現実に引き戻してくれているみたいだった。




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