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エメラルドの鎮魂歌
第5章 青い鳥の唄
郁未は息を呑んだ。
…まさか青山がそこまで強く藍に対して想いを掛けているとは、思わなかったからだ。
それまで黙って話を聞いていた鬼塚が口を開いた。
「…あんた、まさか藍を目当てに養子にしようってのじゃないだろうな?」
「鬼塚くん!」
「藍は頗る美少年だ。あんたは同性愛者らしい。
あんたの欲望を満たすために、藍を引き取るつもりなんじゃないか?」
「鬼塚くん!何てことを…」
余りに不躾な発言に、郁未が慌てて制した。
「大切なことだ。うやむやにしたくないんだ。
…俺は、不幸な養子縁組の例をたくさん見てきているからな」
鬼塚は冷静だった。
郁未は唇を噛み締めた。
…自分たちが未熟だったせいで、養父の魔の手に陥らせてしまった幾人かの孤児の貌が胸に浮かんだのだ。

青山は気を悪くした様子もなく、しかし珍しく真顔で答えた。
「そうだ。私は同性愛者だ。
だが前にも言ったが、年端のいかぬ子どもに手を出すような卑劣な真似はしない。
私は対等な立場の相手でないと、恋愛はしない。絶対にだ。
…つまり、庇護すべき子ども…藍に手を出すことは私の最も忌み嫌い唾棄すべきこと…私の美学に全く反することだからだ」
そして、ふと柔らかな表情で藍を見つめ、続けた。
「私は、藍に父性愛を与えたいのだ。
…私の生母も愛人でね…。私を産み落とすと直ぐに亡くなってしまった。
私を育ててくれた義理の母の聖母マリアのような慈愛がなければ、どうなっていたか分からない…。
…藍は、もう一人の私なのだ。
…私が大切に育てて、幸せな人生を歩めるように導きたいのだ」

真摯でひたむきな言葉に鬼塚は腕を組んだまま、押し黙った。

やがて、大人たちの話を聞いていた藍が静かに口を開いた。
「ねえ、嵯峨先生、鬼塚先生…。
俺は、自分の幸せの為にだけ青山さんの養子になりたいわけじゃないんだ」
「…藍…?」
「俺は…これからここを巣立つ後輩たちの希望となりたい。
孤児でも努力して、希望を捨てなければ夢は叶う…て。
皆んなにも諦めないで、夢を持ち続けてほしいんだ…!」




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