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エメラルドの鎮魂歌
第6章 招かれざる訪問者
…有島篤人は地図を頼りに恩師の別荘を探している途中で、道に迷ったことに気がついた。
秋風が濃く立ち始める十月のこと…避暑地軽井沢はひと気の欠片もない。
土地勘がないのに美しい風景につい気を取られて、どんどん森の奥に入ってしまったようだ。

…困ったな…。
道を聞こうにも、人っ子ひとりいない場所だ…。

昼なお暗い森の中…。
魔女でも出ようかと言うような、幻想的な森だった。
ミントのような針葉樹の葉の香りが辺りに立ち込める。
…ミルク色の靄が、有島を包み込もうとしていた。

…急がなければ、陽が落ちてしまうな…。
有島は足早に、獣道のような遊歩道を歩き出した。


「…だめだよ、バロン。遠くに行ってはいけないよ」
…近くで美しい声が聞こえた…。
まだ若いひとの声だ…。
個人の敷地に入って来てしまったのだろうか…。

引き返そうかと迷いながらも、人の気配の安心感から有島は、その声の方にゆっくりと歩み寄っていった。

「…バロン!おいで…。そちらに行ってはいけないよ…」
声の主は少年だろうか…。
子犬の鳴き声が近づいてきたかと思うと、不意に有島の脚に何かが飛びついてきた。
立ち込める靄が、一層濃くなった。

抱き上げると、それは白い小さな子犬だった。

「バロン?どこにいるの?バロン…」

…そのひとは、いきなり有島の前に現れた。
いや、少女と見紛うばかりの美しい少年だった。
雷に打たれたような衝撃とは、このことを言うのだと、有島はぼんやりと思った。

…蜂蜜色の金髪…高価なエメラルドの瞳…玻璃のように繊細で優美な鼻筋…そして、薫り高い紅色の薔薇の蕾のような唇…。
身につけている衣服は、真珠色の裾の長いドレスだった。
…やはり、少女なのだろうか…。
しかし、少女にしてはその華奢な体に柔らかな丸みは一切ない。

…まるで、お伽話の姫君が形を成したのかと思うほど、そのひとは美しかった…。いや、禍々しいほどに美しすぎた…。

その少年は、靄の向こうに有島の姿を見出すと、美しい眦を張り裂けんばかりに見開き、小さく叫んで後退り始めた。

必死で声を掛ける。
「逃げないでください!…お願いです。何もしません。どうか…どうか…逃げないで…」
有島が近づくと、少年は怯えたようにエメラルドの瞳を潤ませ、首を振る。
「…来ないで…ください…」
掠れた声が、その美しい唇から漏れた。

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