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エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
和葉の戦死の電報を読むなり、瑞葉は絹を切り裂くような悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。
冷たい大理石の床に倒れ込む前に、八雲が抱き上げる。
「瑞葉様!」
そのまま、意識はなかなか戻らなかった。



高熱を出し、うなされる瑞葉は譫言で和葉を呼んだ。
…和葉…いかないで…帰ってきて…と、繰り返し繰り返し泣きながら囁いた。
八雲は三日三晩寝ずに看病をした。

四日目に意識を取り戻した瑞葉は、眼を開けるなり、呟いた。
「…僕のせいだ…」
瑞葉の哀しいほどに澄み切った美しいエメラルドの瞳に涙が溢れる。
「…僕が、廃嫡になったから…和葉は僕の立場を思い遣って、敢えて軍人への道を選んだんだ…。
そうに決まってる…。
そうでなかったら…和葉はあのまま篠宮の家で安泰に暮らせた筈なのに…」
貌を覆い泣き崩れる瑞葉に、八雲は意を決したように口を開いた。

「…いいえ、瑞葉様。貴方のせいではありません。
こうなったのは、すべて私のせいなのです」

余りに意外な言葉が八雲の口から発せられたことに、瑞葉の嗚咽は止まった。
ゆっくりと八雲の方を向き、寝台からそろそろと上半身を起こした。
「…それは…どういう意味…?」

八雲の深い瑠璃色の瞳が真っ直ぐに瑞葉を捉える。
「…薫子様が瑞葉様を廃嫡になさった時に、私が和葉様に申し上げたのです。
…このままでは瑞葉様が余りにお気の毒すぎます…と。
瑞葉様の処遇にお心を痛められた和葉様は、どうしたらお祖母様を罰することが出来るのだろうかと、私にお尋ねになりました。
…私は…賢い和葉様が軍人への道をお選びになるように、敢えて誘導したのです。
…貴方なら最善の方法をご存じの筈です…と」
「…え…?」
エメラルドの瞳が驚愕の余り、溢れ落ちそうに見開かれる。
「…その結果、和葉様は星南学院高等科への進学を内密に取り止められ、幼年士官学校の試験を誰にも仰らずに受けられました。
…軍人への道をお選びなれば、国に命を捧げたも同然。
薫子様に一矢報いる方法はそれしかないと思われたのでしょう。
…私は、和葉様が瑞葉様を思われる純粋なお気持ちを利用したのです。
…すべての責任は、私にあります」


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