この作品は18歳未満閲覧禁止です
![](/image/skin/separater22.gif)
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
![](/image/mobi/1px_nocolor.gif)
愛犬バロンを連れ、散歩から帰った瑞葉を八雲はやや眉を顰め、玄関ホールで出迎えた。
「瑞葉様、陽が高い内はお一人でお歩きになるのは危険です。
誰が見ているか分かりませんから…」
瑞葉は藤色のローブを脱ぐと、八雲を見上げ微笑んだ。
「八雲は心配性だね。
この辺りのひとはもうとっくに東京に帰ってしまったよ。…それに、敷地内なら誰にも会わないよ」
ローブを受け取りながら、八雲は苦言を呈する。
「小作人たちも徐々に戦地から帰郷し始めております。
いつ、お姿を見られるか…」
少しの躊躇ののち、瑞葉は口を開いた。
「…ねえ、八雲…。
僕…もう歩けることが知られてもいいかな…て思い始めているんだ」
「…え?」
八雲が端正な眉を上げる。
美しいエメラルドの瞳が、男を捉える。
「…戦争は終わった。これからは新しい時代が来る…。
…僕も…新しい人生を生きてもいいかな…て」
深い瑠璃色の瞳が、じっと瑞葉を見下ろす。
「…ここから出ていらしたいと言うことですか?」
瑞葉は首を振る。
「違うよ。八雲と二人、自由に生きたいんだ。
お前と二人で、色々なところに行きたい。
色々な経験をしたい。
…もっと勉強したいし、働いてもみたい。
…僕に…何ができるか分からないけれど…」
「瑞葉様…」
首を巡らし、玄関ホールの壁に飾られた白い海軍士官姿の和葉の写真をじっと見つめる。
「…僕は和葉の分も…和葉の人生の分も大切に生きなくちゃ…て考えるようになったんだ…」
瑞葉の視線を追い、八雲の貌に静かな翳りが帯びる。
「…和葉様の分も…。
…そう…そうですね…」
瑞葉の手が、八雲の手を強く握り締める。
「…でも、お前と一緒じゃなきゃ嫌だ。
僕の隣には、いつもお前にいて欲しい。一生だ。
…ねえ、八雲。一緒に…新しい人生を生きてみようよ」
「…瑞葉様…」
…しかし、その手が握り返されることはなく、そっと抜かれた。
そして…
「…私にそのような資格があるとは、到底思えません…」
無機質なその言葉を残し、美しき執事は瑞葉にゆっくりと背を向けたのだ。
「瑞葉様、陽が高い内はお一人でお歩きになるのは危険です。
誰が見ているか分かりませんから…」
瑞葉は藤色のローブを脱ぐと、八雲を見上げ微笑んだ。
「八雲は心配性だね。
この辺りのひとはもうとっくに東京に帰ってしまったよ。…それに、敷地内なら誰にも会わないよ」
ローブを受け取りながら、八雲は苦言を呈する。
「小作人たちも徐々に戦地から帰郷し始めております。
いつ、お姿を見られるか…」
少しの躊躇ののち、瑞葉は口を開いた。
「…ねえ、八雲…。
僕…もう歩けることが知られてもいいかな…て思い始めているんだ」
「…え?」
八雲が端正な眉を上げる。
美しいエメラルドの瞳が、男を捉える。
「…戦争は終わった。これからは新しい時代が来る…。
…僕も…新しい人生を生きてもいいかな…て」
深い瑠璃色の瞳が、じっと瑞葉を見下ろす。
「…ここから出ていらしたいと言うことですか?」
瑞葉は首を振る。
「違うよ。八雲と二人、自由に生きたいんだ。
お前と二人で、色々なところに行きたい。
色々な経験をしたい。
…もっと勉強したいし、働いてもみたい。
…僕に…何ができるか分からないけれど…」
「瑞葉様…」
首を巡らし、玄関ホールの壁に飾られた白い海軍士官姿の和葉の写真をじっと見つめる。
「…僕は和葉の分も…和葉の人生の分も大切に生きなくちゃ…て考えるようになったんだ…」
瑞葉の視線を追い、八雲の貌に静かな翳りが帯びる。
「…和葉様の分も…。
…そう…そうですね…」
瑞葉の手が、八雲の手を強く握り締める。
「…でも、お前と一緒じゃなきゃ嫌だ。
僕の隣には、いつもお前にいて欲しい。一生だ。
…ねえ、八雲。一緒に…新しい人生を生きてみようよ」
「…瑞葉様…」
…しかし、その手が握り返されることはなく、そっと抜かれた。
そして…
「…私にそのような資格があるとは、到底思えません…」
無機質なその言葉を残し、美しき執事は瑞葉にゆっくりと背を向けたのだ。
![](/image/skin/separater22.gif)
![](/image/skin/separater22.gif)