この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
エメラルドの鎮魂歌
第9章 エメラルドの鎮魂歌 〜秘密〜
…千賀子が齎した話は、驚くべき内容であった。
「…え…?僕が…篠宮家の後継者に…?」
瑞葉は絶句した。
瑞葉の背後で、八雲が息を呑む気配がする。
青山は、長い脚を組んだまま、話の行く末をじっくりと見守ろうとしていた。

「ええ、そうよ。瑞葉さん。貴方は篠宮家の後継者として東京に戻って来ていただきたいの」
千賀子がにこやかに笑いながらそう告げた。

一体、どういうことなのだ。
廃嫡になった自分を、後継者だなんて…。

「お母様…僕は…篠宮の家から出されたのですよ。
廃嫡となった僕がなぜ急に…」
辿々しく尋ねる瑞葉に千賀子は、哀しげにマントルピースの上に飾られた和葉の写真に眼を遣る。
「…和葉さんが亡くなったからよ…」

写真は、瑞葉と二人で撮ったものだ。
…久我山の屋敷で…中庭で…和葉が写真技師を呼んで撮らせた唯一の写真…。

「…和葉さんが亡くなった今、篠宮家は後継ぎを失い、断絶寸前の状態なの。
後継ぎがいない貴族は財産を没収され、取り潰しになるのよ。そうなれば、私たちは住む屋敷を失うわ。
使用人も解雇しなくてはならなくなる…。
…瑞葉さん、貴方が必要なの」
余りにも一方的な言い分に、瑞葉は言葉を失くす。

「…そんな…お祖母様がお許しにはならないでしょう…。
僕のことをあんなに嫌われていたのですよ…」
貌も見るのも厭わしいように扱われたのだ。
和葉が亡くなったからと言って、瑞葉をすんなり受け入れるとは到底思えなかった。

千賀子は柔らかな表情を浮かべ、瑞葉に笑いかけた。
「…お義母様は和葉さんが亡くなってからというもの…すっかり気落ちされてね…。寝込んでしまわれる日が多くなったの。
随分気弱になられたわ。
…貴方が歩けるようになったとお聞きになって、大分心を動かされて…それならば瑞葉を後継者にしても良いと仰ったの。
良かったわね、瑞葉さん。
貴方、久我山の屋敷に戻れるのよ」
無邪気に喜ぶ千賀子の姿に、氷のように冷えゆく胸の内を感じる。

…なぜ、お母様はそんなに単純に喜べるのか…。
僕が歩けるようになったから?
歩けなかったら、このまま会いにも来なかったに違いないのに。

どろどろとした屈辱とやり切れない悲哀に塗れた想いが、胸深くに渦巻く。
…けれど、それを言葉にすることは出来ない。
今、言葉にしたら…取り返しがつかないことを口走ってしまいそうだからだ。




/281ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ