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エメラルドの鎮魂歌
第10章 エメラルドの鎮魂歌 〜二つの月〜
数日後、漸く瑞葉は起き上がれるようになった。
そんな瑞葉に、藍は甲斐甲斐しく世話を焼いた。
「瑞葉、少し起きてみる?何か口に入れなくちゃね。
オートミールは?スープの方がいいかな?」

…五年ぶりに会う藍は、長躯のしなやかな身体をした頼もしくも美しい青年に成長していた。
切れ長の美しい瞳、鋭い彫刻刀で削いだような形の良い鼻筋、凛とした唇…そして象牙色の美しい肌…。
清麗な若い騎士のような清々しさと凛々しさを兼ね備えた極上の若者であった。

「…すみません…青山様にも藍さんにもご迷惑を…」
俯いて弱々しい声で詫びる瑞葉の手を優しく握りしめる。
「謝るなよ。俺はあんたの世話が出来て嬉しいんだから」
爽やかで温かな笑顔は、傷ついた瑞葉の心をじんわりと温める。
藍は寝台に腰掛けると、まるで年下の弟に話しかけるようにゆっくりと口を開いた。
「ずっとここにいろ。史郎さんもそれがいいと言ってくれている。
…実は史郎さんは昨日、あんたのお母さんと会って話をしてきたんだ。
…お母さん、史郎さんにあんたのことを頼みたい…て。
ほかに頼れるひとがいないから…て。
…お母さんの実家がこれからもあんたの生活費をすべて負担する…てさ。
お母さんは泣いていたみたいだ。
…あんたをもう篠宮家には戻せないし、事情を知っているのは史郎さんだけだし。
史郎さんならあんたを託せると思ったんだよ。
…お母さん、あんたの体調が落ち着いたら、会いに来たい…て…。どうする?」
瑞葉は力なく首を振った。
…今更…どんな貌をして会えば良いのか…。
それに…会ってしまえばきっと千賀子に酷い言葉を吐いてしまいそうな自分が怖いのだ…。

「…そうか…。なら、会わなくていいよ。
瑞葉がしたくないことはしなくていいさ。
したいことだけすればいい」
きっぱりとした陽性な言葉におずおずと貌を上げる。
「…藍さん…」
澄み切った黒い瞳が瑞葉を捉える。
藍の手が、瑞葉の頬を撫でる。
思わずびくりと身を縮め、貌を背ける。
藍の秀麗な眉が顰められる。
「どうしたの?俺に触られるのは嫌?」
瑞葉は必死で首を振る。
「…違…います…僕は…穢れているから…僕に触れたら…藍さんが汚れてしまう…」
…実の父親に抱かれた身体…穢れた…醜い身体だ…。
瑞葉は唇を噛みしめる。

突然強い力で引き寄せられ、抱きしめられる。
「馬鹿なことを言うな!」

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