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エメラルドの鎮魂歌
第12章 エメラルドの鎮魂歌 〜瑠璃色に睡る〜
…瑞葉は、すっかり面変わりしていた。
腰まであった蜂蜜色の長く美しい髪は、頸辺りで切り揃えられていた。
…長めの前髪がさらりと額を隠し、艶めいた髪を耳にかけている。

…服装も初めて八雲が目にしたものだった。
白いレースの立襟のシャツブラウスは胸の前で大きくリボンタイで結ばれ、アメジスト色の細身のジャケットと、細身の同色のスラックスを身に纏っていた。

すらりとした細身で手足が長く、まるで欧州の貴族の美しい少年のような煌々さと優美さを辺りに振り撒いており、あのドレス姿の美しいお伽話の姫君のような姿が幻のようであった。

どこから見ても紛れもなく美しい青年の姿である。
…八雲が知る瑞葉の面影は欠片もない。
しかし、その高貴なエメラルドの宝石のような瞳は少しも変わらずに煌めき、八雲を瞬きもせずに見つめていた。
…八雲は目の前に立つ瑞葉が美しいと…この姿こそが本来あるべき姿なのだと、言葉も出ぬほどに彼に見惚れた。

「…髪を、お切りになったのですね…。
そのお洋服も…とても良くお似合いになります」

瑞葉は答えなかった。
微動だにせずに、佇み…ただ八雲を見据えている。
そのエメラルドの瞳は冷たく冴え冴えと光っていた。

…八雲は、瑞葉が如何に自分を憎み、厭わしいと思っているのか今更ながらに思い知らされた。
軽々しく声をかけたことを後悔する。

「…お許しください。私のしたことを思えば…また瑞葉様と会話をしていただけると思うなど…余りに厚かましいことでした」
深々と頭を下げる。
…瑞葉からは、何の反応もない。

ゆっくりと頭を上げ、誰よりも愛おしいひとを見つめる。
…返事は期待しなかった。
ただ、伝えたかったのだ。

「…私は、貴方に対して取り返しのつかぬ大罪を犯しました。
貴方の心をこの上なく、絶望的に傷つけてしまいました。
お詫びしてもしきれない…けれど、お詫びするしかありません。
…私は…禁忌を止めることもできぬほど、貴方を愛してしまったのです。
ほかの気持ちは何もなかった…。
…全ては私の罪咎です。貴方は何も悪くありません。
…どうかもう私のことはお忘れになって、新しい人生を歩んでいかれて下さい。
…貴方の輝かしく美しい人生を…」

…言葉が詰まる。
二人の間に、張り詰めた空気が流れる。
瑞葉の、薄紅色の唇が開かれた。


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