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エメラルドの鎮魂歌
第3章 禁断の愛の果実
「失礼いたします」
八雲は東翼の和葉の部屋に入る。

…東翼の二階、一番日当たりが良好で広々とした部屋が和葉の自室であった。
十五歳の少年には分不相応なほどに高価な家具や調度品に囲まれた部屋だ。
北欧から取り寄せた家具や調度品が並び、まるで当主の部屋のような趣きであった。
それらは全て薫子が指示したものである。

瑞葉の古い年代物の家具や古びた調度品ばかりの部屋とは雲泥の差だ。

八雲は無機質な眼差しで和葉を見る。
「ご用件は何でしょうか?」
明らかに冷淡な口調に怯むことなく、和葉は八雲に近づいてきた。
「…来週、お祖母様のお供で黒田公爵家の夜会に行かなくてはならないんだ。
舞踏会でそこの令嬢と踊らなきゃならない」

黒田公爵家には一人娘がいる。
四十を過ぎてようやく出来た待望の娘で、夫妻は溺愛しているのだ。
その娘がまだ十五歳だったはずだ。
「黒田絲子様ですね。
確か、和葉様と同い年でいらした筈です」
和葉が琥珀色の瞳を見開いた。
「詳しいな」
「大奥様のお供で一度、公爵邸に伺ったことがあります」
線の細い大人しそうな娘だった。
黒田公爵家は名門中の名門大貴族だ。
…恐らく薫子は和葉の将来の花嫁候補の1人としてあたりをつけているのだろう。

「…それで、八雲にワルツの練習に付き合って欲しいんだ」
単刀直入に言われ、八雲は少し驚いた。
「私がですか?」
「八雲はワルツの名手だもの。屋敷のクリスマスパーティーでお祖母様やお母様と踊るのを何度も見てるから知ってるよ」

屋敷のクリスマスパーティーでは、主従関係なく無礼講で大広間でダンスを楽しむ。
英国貴族の習わしをそのまま取り入れたのは薫子だ。
慈悲深い主人だという印象を付けたいのだろう。

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