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卒業祝い
第1章 起
「卒業オメデト♪」

ユキが声を掛けると、信司は、はにかんだ。

今日は、信司の高校の卒業式。

「これで信ちゃんも、あたしと同じ大学生だね」

ユキは、マックの新発売のデミグラスバーガーを一つ平らげていた。

バーガーのソースがついた唇を少し舐めたユキが、ブレザー姿の信司を見て、目を丸くした。

「あっ!ネクタイっ」

信司は、白いシャツの胸に手をあてて

「とられちゃった・・・」

と照れ笑いする。

「マジで!誰に?」

「なんかバスケ部の後輩に」

すかさず、ユキが切り込む。

「みっちゃんでしょ?」

「そう、なんかくれっていうから」

「みっちゃん、信ちゃんのこと好きだったからなぁ」

「そうかぁ」

「そうだよ。わかってなかったの!?」

「んー微妙・・俺にはユキがいるし。ユキ以外に眼中ないんだよね」

「ばか。何いってんのよ」

ユキは、コーラをストローから吸い上げるのをやめて、そう言った。

言葉は一見乱暴だが、笑みを浮かべる彼女の表情は柔らかい。

先ほどからユキの話の隙間を伺っていた信司が、身を乗り出した。

「でさ。ユキさ。何でも言うこと聞いてくれるって言ったよね。卒業祝いに」

「そうだっけ・・・言ったっけ?」

「言ったよ。覚えてないの?」

「うーん、言ったような言わなかったような・・・」

ずずずとユキはコーラを全部飲んだ。

「絶対言った。卒業祝いに何でもいいって。だから今日は、お願い聞いてもらうよ」

「そうだけど。でも、できないことは無理だよ」

「わかってるよ」

「じゃ、何?」

「えっとさ。あのー。うーんとぉ。一緒にぃ・・・」

「一緒に?」

「一緒にね、そのね・・・」

「早く言いなさいよ」

「だってさ・・・」

信司は、身体を前後に揺すリ始めた。

「何照れてんの?」

からかうユキ。

「照れてなんかいないよ」

ムキになる信司。

「言わないと、お願い聞いてあげない」

「わかってるよ。で。その。一緒に・・・お風呂入りたい」

「は??」

「だから。お風呂に入りたい。一緒に」

小さく信司はつぶやいた。

「何いってんの?そんなの無理」

「無理じゃないじゃん、それは・・・」

「むりむりむり。ばっかじゃないの。なんてお願いしてんの。もう笑っちゃう」

信司の言葉に被せるように言い、ユキは、ほんとに笑った。
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