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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた

 中等部から大学までほぼエスカレーター式に進んでいると、交友関係も変わり映えしない。


 巻いた茶髪に、ラメを散らした明るい化粧。大粒のアクセサリー。とりわけ自由な校風にすこぶるあやかっていた心陽の見た目と、姉の影響も大きかった並より上の成績に、おりふし珍妙な顔を見せていた教師達には不快を覚えた記憶もあるのは、今となっては思い出だ。課外活動とは無縁だった分、放課後の雑談や寄り道、週末の宿泊女子会といった月並みの行事でスケジュールは一杯だったし、日々、充足していた。姉の陽子も融通のきかないところはあるにせよ、妹に気さくで、心陽は現在進行形で、けだし絵に描いたような不自由ない環境下にいる。


 高等部からやや離れた大学部へ進んでも、通常授業が開始されて三日程度、心陽の日常は呆れるほど変わらなかった。





「まひる!前の人、すごい可愛い!」


 真後ろから聞こえたのは、凛と透き通るような声だった。


 全学科共通の選択科目は、心陽の知らない学生が多くを占めていた。友人達の大方は、この時間、外国言語を履修した。ついに英語に特別な興味を持てなかった心陽にとって、その上更に新たな言語を耳に入れる気にもなれない。従って、一人で社会学の講義に出席する羽目になったのだ。



「絶対◯◯だわ、どうしよう、ギンガムマーガレットシリーズのリボン似合う!ボレロも新作かな、見たような見ていないような。あぁぁ、バッグも可愛い。私、寮にいたから発売日に行けなくて、手に入れ損ねたの」


 心陽は辺りを見回した。


 後方の少女が口にしたのは、確かに、童話から抜け出てきたような花や動物、リボンのモチーフを得手とする、どのアイテムにもレースやフリルがたっぷり盛り込まれたアパレルメーカーの名称だった。心陽が、洋服はもちろん小物まで揃えている贔屓のメーカー。ロリィタとまでいかない愛らしさが特徴で、ギンガムマーガレットシリーズというのもこの春に出た新作だ。発売日に完売したバッグというのも、間違いない。心陽が今日使っている、ウサギとさくらんぼとドット柄のスクールトート。

 周辺に、同じ系統の洋服を着用している学生は見当たらなかった。後方の美声の持ち主が入手を逃したというバッグも。



 …──もしかして、私を見て言ってる?



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