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恥ずかしい真昼の車内
第1章 起
助手席のちづるは、紺のブレザーに身を包んでいる。

地元の公立ではなく、私立中学の制服だ。

「あーあ、サボっちゃったよ、先生のせいで」

ニヤついて、小憎らしいことを言った。

全く私の所為ではないので、それを無視して

「学校から連絡あるんじゃない?家に?」

と聞くが、間髪を入れずに

「あぁ、だいじょぶ。お母さんもお父さんも働いてるから。友達に、風邪で病院いくって言っといてって伝言頼んでおいたし」

いやに慣れた感じの物言いだ。



彼女は、1年前から個人指導している中学校の落ちこぼれ組で、母親が心配して塾に入れたものの、学校は時々休むは、もちろん塾にも来たり来なかったり。

悪いことをしたり、反抗したりはないものの、かなりの気分屋でワガママなところがある。

顔は、川栄似のちょっとヤンキーが入っている可愛い普通の中学3年生だ。

中学生は、人から信用されたいなんて感覚もなく、したい放題の時期だから生意気なもの。

それが妙に加虐魂をそそったりする。

今は昼の3時過ぎで、私の車の助手席に彼女は座っている。

LINEで、連絡を寄越してきた彼女の要望が、私の車でドライブしたいということだったので、塾を開ける前に出てきたのだ。

私は、彼女に気に入られており、軽い相談を受けたりする。

塾の先生として一線を越えるのは、まずい。

常識的にそれが正しいのはわかっているが、そうした感覚を守ることが、必ずしも良いとは限らない。

互いの求めるものが、合致しているならば、世間の目が邪魔なときもある。



「お前、確信犯じゃん」

「ふふふ・・」

ちづるの笑いにつられて、私も笑みをこぼす。

塾の近くにある公園の駐車場に停めている乗用車の中に、しばし沈黙が流れた。

「なんか、つまんない」

ちづるは、車内のものをいじりはじめて、しばらくするとそう呟いた。

私に向き直ると、突然、私の首にあるマフラーを取り上げた。

私は苦笑いして

「ちづる、返せ」

と奪われたマフラーに手をかけようとするが、ひょいひょいと中空に浮かせて返さない。

キャハハと笑いながら、私をからかう。

「もう帰らないと。俺も塾あるし。さあ、返して」

「これ頂戴」

「だめ」

「じゃあ、貸して。今日一日」

「は?なんで?」

「なんでも」

こんな会話とマフラーの奪い合いを繰り返す。
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