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約束 ~禁断の恋人~
第2章 決意
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
マンションへ戻って、すぐ手術の準備を始める。
海に予備麻酔をしてから、棚の奥にしまってあった手術着に袖を通す。
意識の無い彼に予備麻酔は必要無いが、出来る限り普通の患者として扱いたかった。
道具を確認してから麻酔に切り替る。拡大鏡とライトが付いたゴーグルを装着し、マスクと手袋をはめた。
これだけで、いつものように身が引き締まる。
チューブだった酸素供給をカップに替え、輸血用の点滴を刺す。
頭部の剃毛(ていもう)は、必要最低限の数センチ角。これなら術後に殆ど目立たない。
もう一度両脇に置かれた台の器具を確認してから、レーザーメスを持った。
一人での手術は初めて。どんなに簡単なものでも、他に助手となる人物が付いている。
指先が微かに震えた。
一度大きく深呼吸してから、海の頭部へ手をかける。
移植自体は、大した手術じゃない。切開した頭部に軟性シリコンに包んだチップを入れるだけ。
ただ苦労するのは、チップから出ている無数の線と神経を繋ぎ合わせていく作業。ミリ単位の両方を繋ぎ合わせるのには、時間と精神力が必要となる。
海の頭部にレーザーメスを当ててからの僕は、殆ど機械的に作業を続けた。
彼を助けたい。
そればかり、頭の中で繰り返して。
あの笑顔を、もう一度見たい。
それしか考えられなかった。
この一年、海との生活は楽しいことばかり。
それまでの僕には、研究しかなかった。
疲れて戻った深夜に、仕事の都合で海が寝ていても構わない。愛する人がいるというだけで、このマンションが安らぎの場になってくれた。
溢れ出る血液で、接続部分を見失いそうになる。普段なら助手がガーゼで拭いて行くが、今は僕一人。
流れる汗を袖口で拭いながら、心電図にも気を配る。
途中、輸血パックの交換。足りなくなったガーゼの補充。全て自分でするしかなかった。
出来るだけ早く終わらせなければ、既に弱っている心臓が持たないかもしれない。