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約束 ~禁断の恋人~
第2章 決意
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「Dr.……?」
その声に、何とか目を開ける。
ベッドに上体を起こしている海の足下に俯せていた自分に気付き、慌てて立ち上がった。
「海……」
彼にしがみついていた。
僕は、悪い夢を見ていただけ。
海が事故に遭い脳死状態になった夢を見たと言ったら、彼は大笑いするだろう。
『死にぞこないは長生きするぞ』と言って。
海らしく大声で笑い、僕の髪をくしゃくしゃとする。
でも全てが夢じゃないと痛感させたのは、もう繋がってはいない生命維持装置と、あまり抑揚の無い海の台詞。
「Dr.ですよね。何とお呼びすればいいですか……」
その言葉に、体を離して彼を見つめた。
僕が使ったチップには成人男性として必要な知識の他に、プロジェクトやDr.の存在についてもインプットしてある。まだ“Z”本体は製作されていないが、女性用の物も研究所にあった。
“Z”はDr.に対して、絶対服従を守らなければならない。それらが全てトップシークレットだというのも知っている。
「海……。僕だよ? トモだよ……」
彼は、いつもそう呼んでくれた。
“Dr.桐島”から“桐島さん”になり、やがて“朋也”へ。
親しくなる度に、自然と呼び名が変って行った。
初めて“トモ”と呼ばれた時は嬉しかったが、凄く恥ずかしかったのも憶えている。
「Dr.トモですか?」
無表情で言う海に、彼が感情の無い“Z”だと思い知らされた。
「Dr.は、いらない。トモだけでいい……」
「はい。分かりました。トモ」
最初から分かっていたはずなのに。人工知能のチップを移植しても、海が生き返るわけじゃない。
動いたり話したりは出来る。それでも、“僕の海”じゃない。
「私の固有名詞は、何ですか?」
「君の名前は、海だよ……」
彼が「カイ……」と呟き、僕はまた溜息をついた。
覚えているはずが無い。
分かっていたはずなのに、ショックが大きかった。
「敬語は使わないで……。それと、君の一人称は、“オレ”だから……」