この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
わがままな氷上の貴公子
第6章 本音
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
今日は、朝からクラブでの個人練習。
冒頭の4回転サルコウについて、細かな練習を繰り返す。
そこで転倒して動揺すれば、後の演技にも響きかねない。
序盤に加点を多く取らなければ、後半は大技が少ない。基礎点が1.1倍になる最後三回のジャンプに、大技を入れる方が有利だとは分かっている。
それでも、オレには持久力がない。
ジャンプは前半に、コンビネーションを二つ含めた四つ。後半には、3回転を三つ。間とラストは柔軟さで魅せる演技構成。
疲労から転倒するよりはいいと、安全策を取るしかない。
本当は悔しかった。
オレの実力と柔軟さに持久力が加われば、上を目指すのも簡単なはず。
採点競技では、見た目も重視される。
そんなことはないと言うのは、表向き。
顔やスタイルの良い方が、印象だって良くなるだろう?
贔屓(ひいき)する気はなくても、審査員だって人間。知らず知らずのうちに、見た目のいい選手に高得点を付けたくなる。
ずんぐりした体型の選手と全く同じ演技をしたとすれば、オレの方が印象として多く加点が付く。体操競技なんかもそうだ。
それを知っているからこそ、食事制限をしてまでスタイルを保つ。フィギュアスケーターとして、当たり前のこと。
「望月。以前より、ジャンプが高くなったな」
コーチの鈴鹿に言われた。
ダイエットの成果だろう。それに地下のジムに通って、下半身の強化もしていた。
「これなら狙えるぞ」
「はい」
鈴鹿に言われると、自信もつく。
自信も、フィギュアスケーターにとって大切な要素だ。
たくさんの観客に、テレビ中継。国を背負う重圧。オレは平気だが、そんなプレッシャーに負けて落ちていくヤツも少なくない。
そう言えば潤のヤツは、オレが学校へ出かけても寝ていた。
オレのベッドで!
和子さんには、オレが二階のゲストルームで寝たように偽装しておいた。
わざとシーツにシワを付け、シャワーもそこで使って。
きちんと朝食を摂って出たから、後は知らない。
潤だって大学があるはずだが、それだってオレに関係ないだろ?
あいつ、教育学部だって言ってたよな?
教師になる気か?