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わがままな氷上の貴公子
第7章  不安


 もう怒鳴る気も失せた……。
 しょうがないか。
 もしかしたら……。
 和子さんは、食欲がない理由に気付いていて、オレを来させたのかもしれない。潤がいて賑やかになれば、食べるだろうと。
 そうだったら、一緒に帰るのは恥ずかしいじゃないかっ!
 でも、出来るだけ早く帰りたい。
 潤の父親も骨折だけなら、そう心配はないだろう。
「忘れてた。ホラ。お前のスマホ」
 キャリーバッグの中から、和子さんに持たされたスマホを潤へ渡す。
「ありがとう。他で失くしたら、大変だったよねえ」
 何となく気が抜ける。
 でも、それが潤だ。
 オレだって、この先変わろうとは思わないし。
 溜息をついてから支度をして、潤と一緒にホテルを出た。



 潤は一度家に戻り、空港で待ち合わせ。
 「悠ちゃんも一緒に」と言われたが、あんな夜を過ごした後、実家へいくのも照れがある。
 あいつが勝手に取った帰りのチケットは、同じ便。
 隣の席が取れなかったと、潤は珍しく悔しがっていた。
 帰るだけなんだから、席なんてどうでもいいのに。
 ホテルを出る時に“望月悠斗”かと訊かれたが、よく間違えられるとスルーした。
 潤が答えそうになった時は慌てたが……。
 空港でマスクを買ってつけ、髪を結ぶ。来る時は、そんなことも忘れていた。
 顔を隠すのもあるが、風邪防止のため。
 大体、マスクもなしで病院へ入ってしまった。どんな病気の患者がいるか分からないのに。
 潤が心配で、そこまで頭が回らなかった。
 それは……。
「悠ちゃーん!」
 前の方の座席から、潤の呼ぶ声。
 搭乗する最後の最後まで、あいつは隣がいいと溜息をついていた。
 勿論、無視。
「悠ちゃん! 悠ちゃんてばあ!」
 機内で、何の急用があるんだよ!?
 帰ってから話せばいいだろう?
 大体潤は土産の荷物がやたら多くて、バタバタしていたのに。
 ガタイがいいだけで、機内でも目立つ。今だって、他の乗客の視線を浴びている。
 無視を続けていると、やっとCAが注意してくれた。
 オレ、何考えてたんだっけ?
 あいつのせいで、分からなくなった。
 今オレにとって大切なのは、やはりスケート。


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