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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第1章 夢の中でも、抱いていて…
クリスマス休暇を取ろうと言い出したのは、月城だった。
「クリスマス休暇?」
暁は月城の心尽くしのマルゲリータピザを取り分けながら、訊ね返した。
「ええ、クリスマス休暇です。こちらの人々は皆、取りますよ。シャモニーにスキーに行ったり、暖かな場所に行ったりと様々ですが…」
月城の漆黒の瞳がじっと暁を捉える。
…少し酔っているのか、その眼差しはいつにも増して熱っぽかった。
「どうしたの?急に…。いつもは定休日以外休まない…て、漁だって…」
言いかけた暁の頬を男の逞しく大きな手が覆った。
その手はそっと愛撫するように優しく頬を撫でる。
「…ニースに来てから、貴方は働き詰めだ。
夏の休暇も碌に取っていない…」
触れられた肌がじわりと火照る。
「…ここは避暑地だもの。稼ぎ時に休む訳にいかないよ」
…それに…と、暁は月城の手に手を重ねる。
漁に出るようになって月城の肌は褐色に焼け、少しざらりと肌理が粗くなった。
けれど、暁にとっては誰よりも美しい手だ。
「僕は君と一緒にいられるだけで幸せなんだ。
君と一日中一緒に働けるなんて…夢のように幸せだ」
月城はため息を吐いた。
「…もう少し、我儘になって下さい。
貴方は何も欲しがらないし、貴方を喜ばせることを考え付かない…。
情けないですね…」
「それは違う!」
きっぱりと首を振り、月城の手を握りしめる。
「僕は君がすべてなんだ。だから今はすべてが満たされて、欲しいものは何もないんだ。
…だから…何もいらない」
「…暁様…」

暁の射干玉色の瞳がしっとりと潤む。
その瞳がはにかむように微笑んだ。
「…じゃあ…キスして…」
「暁様…」
「…それから、クリスマスの夜は、僕をずっと抱いていて…。夢の中でも…抱いていて…」
月城の端正な眉が切なげに寄せられ、そのまま愛おしい伴侶を掬い上げるように力強く抱き上げる。

グラスが倒れ、ワインが溢れた。
「月城…!」
暁が慌てて男を見上げる。
怜悧な美貌が柔らかく微笑んでいた。
「クリスマスまで待てません。
今宵、貴方と夢の中でも愛し合いたい…」
透き通るように白い肌を桜色に染め、暁は月城の首筋を引き寄せた。
「…愛している。夢の中でも…どこまででも連れていって…」
「…暁…」
…愛している…。
愛の言葉は熱い口づけと共に、暁の中に甘く蕩けた。

二人の夜は…始まったばかりだ…。

〜fin〜



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