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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
月城の連絡を受け、風間一家がニースの二人の家を訪れたのは、次の週末のことであった。

「やあ、久しぶりだね。
…暁…。よく貌を見せてくれ。
ああ、君は相変わらず美しいな…。まさに奇跡だ」
風間は人目も憚らず…月城や風間の妻、百合子…そして二人の間の一粒種 瑠璃子の前でも…暁を抱き寄せ、熱く囁いた。

「相変わらずですね、忍さん」
暁は苦笑した。
一応、背後の月城を慮ってだろう。

「月城さん、済まないね。
俺は暁に会うとたちまち青春時代に戻ってしまうのさ。
少しだけ、暁を借りるよ」
振り返り、悪戯っぽく目配せされると嫉妬を露わにするわけにはいかない。
風間は開けっぴろげな裏のない人間だからだ。

「…いいえ。風間様は特別なお方ですから…」
大人の対応を心掛け、風間の背後の百合子に視線を転じる。

落ち着いた品の良い臙脂色のケープ付きの外套を身に纏った風間の妻、百合子は月城と眼を合わせると静かに微笑った。

この風間より年上の淑やかに美しい妻は、夫と暁に纏わる様々な事柄をすべて心得、穏やかに構えているようであった。

その懐の広さに月城は密かに感動し、敬意を払う。

「…百合子様、瑠璃子様、ようこそお越し下さいました。
さあ、狭いところではございますが、どうぞお寛ぎくださいませ」
美しい母娘に恭しく一礼し、店の中へと誘なうのであった。
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