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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
「…こうしてまた皆で会えるなんて…戦争中は思いもしなかったことだな…」
風間がしみじみと呟いた。
臨時休業にした店の広いテーブルの前に、風間一家と月城、暁が座る。
テーブルには月城が漁で獲った新鮮ないさきとムール貝のブイヤベース、暁の手作りのチーズと茸と卵のキッシュ、ゴルゴンゾーラチーズのパスタ、鶏のレバーパテ、生ハムとアンティーブとチコリ、トマトがたっぷり使われたニースサラダなどが並んだ。
大人たちは辛口のシャブリで乾杯し、瑠璃子にはシードルが、グラスに注がれた。

…風間忍は今やパリに三つの三つ星ホテルを展開する敏腕実業家だ。
枯葉色の上質なツイードジャケットに大胆なデザインの縞のシャツが良く似合う相変わらずの洒落男ぶりであった。
綺麗に手入れされた口髭が風間に大人の貫禄と成熟した魅力を与えていた。

…風間忍はかつて、暁の…ほんの束の間の恋人であった。
その経緯は了解しているし、今は風間は妻の百合子をこの上なく愛していることも、よく分かっている。
暁が自分のことを誰よりも深く愛していることも…。
けれど、こうして同じ空間にいるとやはり、胸の中が少しだけもやもやするような複雑な感情に襲われるのだ。
…たとえば、風間が暁の肩に親しげに手を置いたり、暁が屈託無く笑い返したりするのを見ると…。

…私はいつまで経っても成長しないな…。
子どもじみた嫉妬心に、我ながら可笑しくなる。

「…本当ですわね。
戦争中は、私たちが伺うことで、月城様や暁様にご迷惑がかかっては…と危惧したのですが、今はもうその心配はなくなりましたわね」
品良くフォークを使いながら、優しさに満ちた口調で語る百合子も今ではパリに二店舗の子供服の洋品店を経営する職業婦人だ。

まだパリに来て間もない頃、フランス語が操れない百合子はホームシックになりかけた。
そんな時、温かい声をかけてくれた下町のスラブ人の仕立て屋の仕事を百合子は手伝うようになったのだ。
そこから地道な努力を繰り返し、自分の事業を起こした百合子は、ある意味ここにいる誰よりも革新的で進歩的な人間なのかもしれない。

…月城は、目の前にいる嫋やかで楚々とした百合子の波乱に富んだ半生を思い浮かべる…。


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