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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
「…暁様?
まだお寝みにならないのですか?」
窓辺のライティングデスクで筆を走らせている暁に、月城は声をかけた。
「…もう寝むよ。
薫に手紙を書き上げたからね」
封をして、熱い蜜蝋を落とし、礼也から貰い受けた指輪で印を押す。
…縣家にいる時からの習慣だ。

「…手紙を自由に出せるようになっただけでも、戦争が終わって良かったと思うよ…」
宛名を見つめながら、呟く。
「そうですね…本当に…」
月城は暁の華奢な肩に温かなカーディガンをそっと掛ける。
肩に置かれた手を握り締め、月城を見上げる。
「君は?能登のお母様や凛さんにお手紙は書いているの?」
「はい。時々…。母も大分年老いたようで…寒い季節は少し心配です…」
その言葉に暁の胸はつきりと痛む。
「…月城…。
会いたいだろう?お母様や凛さんに…」
握り締める手に手が重なる。
少しカサつき日焼けした手…それはかつて北白川伯爵家で執事をしていた時には思いもよらぬものだった。
客人の前に晒し、北白川伯爵や美しき令嬢の世話をする執事の手は常に白くなめらかで美しくあらねばならなかったからだ。

月城は静かに首を振る。
「…いいえ。元気でいると分かればそれで充分です…」
その手を取りしみじみと見つめる暁に、少し照れたように引っ込めようとする。
「荒れておりますから、暁様のお手を傷つけます」
強く引き寄せ、頰に押し当てる。
「…月城…。
君の手はとても綺麗だ」
「…暁様…」
月城が驚いたように怜悧な瞳を見開く。
「僕は今の君の手が大好きだ。
…この手には君の美しい歴史が刻まれているから…。
この手に触れられると、僕はすごく幸せになる…」
「…暁様…!」
掬い上げられるように抱きしめられる。
引き締まった筋肉質な胸元…。
…潮風の匂いと…昔と変わらぬ水仙の薫りを、胸一杯に吸い込む。
そっと眼を閉じ、唄うように囁く。

「…いつか、日本に行こう。
兄さんや光さんや薫や菫…泉や司くんに会いに行こう…。
春馬さんや絢子さん、暁人くんにもだ…。
…それから、能登のお母様と凛さんにも会いに行くんだ…。
いつか…必ず…」
「…暁様…」

続きの言葉は、やはり月城の熱いくちづけに溶かされていったのだ…。








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