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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第11章 海賊と昼食を
リーズルが船着場を去った気配ののち、静かなブーツの靴音が近づいて来た。

「…かくれんぼですか?暁様」
逆光を背に、美しい男の貌が微笑みながら覗き込む。
…ブロンズ色に輝く、端麗な貌に思わず見惚れる。

「…ばか…」
膨れっ面で貌を背ける暁の目尻の涙を優しく拭うと、そのまま掬い上げるように力強く抱きすくめた。

…潮風の匂い…そして…
昔と少しも変わらぬ、芳しい水仙の薫りが微かに漂う…。

「…月城…」
「…暁様…。愛しています…」
…何百回、何千回聞いても、初めてのときのように甘くときめく。

「…ひとが見る…」
「見させてやりますよ…」
悪戯っ子のように、月城の美しい切長の眼が細められる。
「…ばか…」

貌の輪郭をなぞられ、顎を引き寄せられる。
「やきもち、焼いてくださいましたか?」
「…焼いた…すごく…」
…若く可愛い少女が、真っ直ぐに月城に向かってゆくところが…眩しくて、羨ましかった…。

「…だって…僕は君に子どもを授けてあげられ…ん…っ…」
続く言葉を食むように口唇を奪われた。

「…その話はもう聞きません」
黒い瞳が揺るぎない意思を秘めて暁を見つめていた。

「私は貴方さえいたら幸せなのです」
…貴方は違うのですか?
と、少し意地悪な口調で問われる。

幸せな気持ちで苦笑いしながら首を振る。
「ううん。僕も同じだ。
君がいれば、何もいらない」

二人は睫毛が触れ合う距離で微笑い合う。

「…では、キスしてください。
貴方から…」

口唇を寄せかけて…
「…ここじゃ、恥ずかしい…」
男の耳もとに囁いた。
…漁港は知った貌ばかりだ。
いくら二人の仲がこの町では公然の事実だとしても…。

月城はふっと笑うと、そのまま暁を軽々と抱き上げた。

「ちょ…っ…つきし…」

慌てる暁を優しく見下ろし…
「…恥ずかしがり屋の姫君は、海賊の城にお連れすることにしましょう」

やや芝居掛かったように告げると、暁を停泊している船へと連れ去ったのだった。


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