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SS作品集
第3章 “春”を探しに 風太
お天気がいい。
窓から見えるお外はポカポカだ。
ボクは、窓枠から隣の屋根へ飛び移った。
最近ここまで来られるようになったから、お天気のいい日はいつも来てる。
屋根の上で寝て、ゴハンまでの時間をゴロゴロして過ごしてたから。
「ミャアー!!」
ボクにしては一度大きな声で鳴いてから、冒険へ出発だ。
屋根の上を歩き出す。
“春”っていうものを探す冒険。
冒険って言葉はこの前覚えた。お家の人と観てたテレビで言ってたから。
怖かったり大変なことがあるけど、冒険は楽しいんだって。
お家の人がみんな、“春”が来たって最近よく話している。話をよく聞いていると、“春”はお外にあるみたいだったから。
ボクはまだ、“春”を見たことがない。
だからお外に冒険に出るんだ。
ボクは屋根伝いに回って塀へと降りた。これくらいはへっちゃら。
そして何度も考えながら、思い切って地面に降りてみる。
フカフカだ。
辺り一面草いっぱいで、小さなお花が咲いている。その匂いを嗅いでみた。
食べられないけど、凄く優しい匂い。
これが“春”っていうのかな?
上を見上げると、空に雲がある。ゆっくり動いて色んな形になる雲は面白くて好き。
「あら可愛い猫ちゃんねー」
歩いて来た女の人が言う。
違うよ。僕は“猫ちゃん”じゃなくて、風太(ふうた)。
「ミャー」
僕は言ったけど、やっぱり通じない。
まあ、いいか。
そう思いながらも、ボクはトコトコ歩き出した。
少し歩いた途中で会ったのは、ボクより凄く大きいヤツ。耳がピンと立っていて、体に黒い模様がいっぱいある。
黒だけは解るんだ。だってボクは真っ黒だってお家の人が言うから。
自分の手や足を見て、黒を覚えた。
大きいヤツは怖そうだけど、人間に紐で引っ張られている。
ボクも首輪はしてるけど、紐で繋がれたことはない。
突然、「ワン!」と大きな声で鳴かれて、ボクは走って逃げた。
あいつは紐で繋がれてるから、追いかけては来られない。
やっぱり、冒険にはちょっと怖いこともあるんだ。