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SS作品集
第3章 “春”を探しに 風太
着いた所には、さっきよりもっと大きな草が生えていた。
頑張って背伸びをしてみても、ボクの負け。
もっともっと大きくなったら、また挑戦してやる。
さっき紐でつながれてたヤツより、大きくなれるかなあ。
でもここでゴロゴロすると、気持ちいい。
寝たままだと、お空もよく見える。
これは“春”とちょっと違うかなあ……。
だけど気持ちいいから暫くそこでゴロンゴロンしてた。
よし。気持ちいいから“春”ってことにしておこう。
そう思って、ボクは立ち上がった。
体に着いた細かい草を舐めて落としてから、また歩き出す。
すぐに着いたのは、大きなお家のお庭の前。
木で出来た塀をくぐって中へ入ると、お花が咲いている。色の名前は知らないけど、色々な色で綺麗。
ボクは前足でちょっと触ってみた。
背の高いお花が揺れる。
もっと強く触ってみると、もっと強く揺れる。
これが“春”なのかもしれない。
何だか気持ちよくなって、その場に寝転がってみた。ゴロゴロしてみると、お家や屋根の上より気持ちいい。
きっとこれが“春”なんだ。
綺麗なお花が咲いて、風も暖かくて、何だか気持ちいい感じ。
“春”って、いっぱいあるんだ。
いっぱい気持ちいいものがやってくる。
“春”って凄く素敵なんだな。
ずっと“春”ばっかりだといいな。
お家の人は「“春”が来た」って言ってたけど、どこから来たんだろう。
ここに来ちゃったら、どこかから“春”がなくなっちゃうのかなあ……。こんなに気持ちいい“春”がなくなったところは、可哀そうだ。
ボクがママのところから今のお家に来た時のことは、よく覚えていない。ママと会えないのは淋しいけど、今のお家の人達が優しいから大丈夫。
その頃のお家の人は、「今年は“春”が遅いねえ」と言っていたのは何となく覚えてる。
もっとたくさん冒険すれば、本当の“春”がわかるのかなあ。
でも、そろそろお腹がすいて来た。大きなヤツから逃げてきたのはあっちからだったのはちゃんと覚えてる。
ボクはゴロンゴロンするのをやめて、お家に戻ることにした。