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SS作品集
第31章  迷信



「ベッドは反対の向きにして欲しいって言ったじゃないですか……」
 搬入と組み立ての業者の人に向かって、溜息をついた。
 ベッドヘッドのデザインが気に入ったベッドだから、頭の方向は自然と決まってしまう。
「とにかく、絶対反対向きに置いてください。それじゃあ、北枕じゃないですか。縁起が悪い」
 僕の言葉に、渋々という顔をしながらも、業者は向きを変えている。
 引っ越しと同時に新しいベッドを買ったのに、北枕なんて冗談じゃない。
 その様子を眺めながら、僕は梱包された段ボール箱のガムテープを剥がした。
「痛っ……」
 指先から血が出ている。
 この所物件探しや引っ越し作業で忙しくて、暫く爪を切るのを忘れていた。
 僕は普通の会社員だから、それらが出来るのは夜だけ。昼間仕事をして夜は荷造りと、この一週間は忙しかった。
 爪の先が割れている。
 このまま作業を続ければ、肉の方まで割れが進むかもしれない。
 仕方なく、まずは救急箱を探すことにした。
 全てのダンボール箱には、何が入っているかフェルトペンで書いてある。救急箱を探すのは容易だった。
 何とか片手だけで箱を開け、救急箱の中から絆創膏を取り出す。一応消毒してからそれを貼った。
 他の爪も伸びているのが気になったが、夜に爪を切るわけにはいかない。
 夜に爪を切ると、親の死に目に会えないと言われている。そんな縁起の悪いこと、出来るはずもない。
「やめてください!」
 ベッドを直す男の一人に行った。
 彼が口笛を吹いていたのだ。
 夜に口笛を吹くと蛇が来る。
 ここは都内で蛇などはいないが、何か邪悪なものを呼び込みそうだ。
 男は軽く頭を下げ、「すみません」と言って口笛をやめた。
 26歳の僕より、どう見ても年上の男達なのに。常識というものを知らないのだろうか。
 作業を楽しくするためにと、昼間なら構わない。でも今は夜。やってはいけないことがいくつもある。
 親に習わなかったのだろうか。
 僕は宗教などを信じないが、当たり前のことはきちんと信じて実行している。



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