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SS作品集
第35章 ハロウィーン
都心のスクランブル交差点では、意味の分からない騒めきや叫び声が上がっている。
ハロウィーン・ナイトと称して、十年ほど前から当日だけ歩行者天国にしていた。
「トリック・オア・トリート」と言う子供などいない。
大人ばかりが集まり、年に一度のこの日を楽しんでいる。
様々なコスプレ。
それでもゾンビ系のものが多く、顔や服には血のりが付いていた。
酒を飲んだりして、夜通し騒ぎまくっている。
歩行者天国といっても、場所は定められていた。
高い金網で範囲を仕切り、出入り口は二ヶ所だけ。入場料を取り、その中には警察官もいない。
正に無法地帯だが、その中ならさほど迷惑にならないと、国家も乗り出した一大イベントになっている。
当日だけはバスも緊急自動車もルートを変えて走っていた。
通れないと以前から知っていた方が、色々な対応が出来る。
範囲を定めたからには、それ以外で騒ぐとすぐ逮捕されてしまう。
参加者も年々それを理解し、現在では周りの店舗も平常通り営業出来るようになった。
平和なハロウィン・ナイトだ。
顔をしかめる大人もいるが、そういう者は近付かなければいい。
たった一晩。
金網の撤去や掃除を含めても、年にたった二日我慢すればいい。
何より範囲外に害がないことで、納得する者の方が多かった。
騒ぎたい者と騒ぎたくない者が上手く区分され、街も汚れずに済む。
本当にいいことづくめだ。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「それで? この日記のどこがおもしろいの?」
少女が男性に訊く。
「まあまあ。次のページを読んでみなよ。西暦3000年代からは、考えられないことだよ」
「この、300年前の日記が?」
「ああ」
少女はページをめくった。