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SS作品集
第37章 テレビ
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「き、君のことが、す、好きなんだ。僕と、ずっと、い、一緒に、いて欲しい」
「ありがとう……」
有名女優を抱きしめてのラストシーン。
通常ドラマというのは順不同に撮っていくものだが、今回は僕のためにストーリー順にしてくれた。
「オールアップです! お疲れ様でした!」
スタッフの声が飛び、有名女優と並んで大きな花束を受け取る。
達成感から来る感動で、僕は涙を堪えた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
ドラマが放送された後、僕はまたアルバイトをメインにしている。
視聴率は5.4%。
ほんの少しだが、ネットでは僕の演技が酷いと書き込まれていた。
それほどNGも出していない。カットがかかるたび、監督は何も言わなかったのに。
思い切って、監督へ電話した。
「ゴールデンなのに5.4%なんて、すみません……」
『いいんだよ。君の演技が下手でも。有名女優と名脇役が出てれば、観たいやつは観るだろ?』
僕は何も言えなくなってしまう。
『大体。このご時世、5.4%あればいいだろ? この後、君に仕事が来るかは、知らないけどね。じゃ』
監督に通話を切られ、スマホを置いた。
そうだ。
テレビドラマ一本で喜んでいる場合じゃないんだ。
今はネットドラマの方が人気がある。それに、有料チャンネルも200以上に増えた。
ネットゲームも盛り上がり、テレビを観る者自体が減っている。
そんな中5.4%の人が観たかったのは、有名女優と名脇役だろう。
僕は台本上の主演なだけで、主役は他の人達だった。
下手な演技を晒してしまった今、もう俳優としての仕事は無いだろう。
厨房で皿を洗いながら、僕は溜息をついた。
終わり
今後の彼の運命は……?