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SS作品集
第5章 ベッド
真夜中。暗闇から、声だけが聞こえる夢を見ていた。
「重いなー。重いなー」
不思議と怖い夢だとは感じなかったが、その言葉だけが繰り返されている。
僕は目を覚まして、上半身を起こした。
だが、嫌な夢だ。
確かに僕は重い。175cmの身長で、100kgを少し超えている。
学生時代までは普通の体系だったのだが、社会人になってからの不摂生のせいだ。
入社してすぐ色々な上司に誘われ、週に3日は呑みに行っていた。
若いんだから、もっと呑みなさい。
若いんだから、もっと食べなきゃ。
言われるままにしているとそれが習慣になってしまい、普段も大食漢になってしまった。
会社では出前の昼食に、カツ丼と大盛りラーメンは当たり前。
上司からの誘いが無い時の夕食は、会社の帰りにラーメン屋に寄り、同じようなメニューを食べる。
ひとり暮らしのマンションでDVDを観ながらビールを呑み、つまみはポテトチップスなのも毎日のこと。寝る前に腹が空いてもいいように、カップラーメンを買い溜めしてある。
僕の趣味はDVD鑑賞で、スポーツをしたのは大学の時までだ。
そんな生活を繰り返していると、2年も経たないうちに100kgを越えていた。
「重いなー。重いなー」
目を覚ましたのに、また聞こえてくる。勿論、部屋には誰もいない。
「重いなー。重いなー」
よく聞いているとその声は、僕がいるベッドから聞こえてくる。
このベッドは、数日前に買ったばかり。以前のものは、僕の体重のせいでミシミシ言うようになってしまった。
だから今度は、少し高かったが丈夫な物にしたのに。
「重いなー。重いなー」
ベッドは呟き続ける。
それもあって、僕はダイエットする決意をした。
朝は野菜サラダとスープだけ。昼も夜も一品だけにした。
上司に誘われた時には付き合うが、呑むのも食べるのもそれとなくセーブ。家にあったカップラーメンは処分して、DVDを観ながらのポテトチップスもやめた。
運動をする時間が無い代わりに、食生活を徹底改善するしかない。