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SS作品集
第1章 白い世界
目を覚ますと、僕はベッドに寝ていた。
寝心地は悪くなく、以前寝具屋で試しに寝てみたような、体にフィットする感覚のマットレスと枕。
室内を見回すと、広い部屋で同じように何十人もの人が眠っているようだ。
ベッドは透明なカプセルに包まれていて、自分ではベッドから降りられない。それどころか狭いカプセルの中では身動きさえも難しく、首を動かすのがやっと。
少し寒いが、ベッドの足下から勢いよく温風が出ていた。それなのにカプセルは曇らない。
壁際にいるお蔭で室内は見渡せたが、真っ白な床に真っ白な壁。天上も同じく真っ白で、ドアも窓も見当たらない。
病院?
だが、それにしては広すぎた。
左腕には、小さな機械が巻かれている。そこに着いた赤と青のランプは、青が点滅していた。
ここは、いったいどこなんだ?
何も思い出せない。名前も歳も、どうしてここにいるのかも。
自分が何者か分からない感覚は、酷く不安だった。
壁だと思っていた一部が突然開き、白衣を着て大きなマスクをした男女が入って来る。
そのまま僕のベッドに近付くと、キャスターのロックを外したようだ。ベッドが動かされ、無言のまま広い部屋を出ていく。
だが廊下に出ても、床や壁、天井も真っ白。その中をベッドが静かに進んでいく。
何度か自動ドアを通り、やっと部屋らしき場所に着いた。
大きな自動ドアを開けて中へ入ると、マンションのように色々な設備はあるようだが、室内も全て真っ白。
「今日から、ここがあなたの部屋ですよ」
女性がやっと口を開いた。
壁際にベッドを置いてキャスターをロックすると、ベッドのどこかを操作したらしい。僕を覆っていたカプセルがゆっくりと開いていく。
マスクをズラした顔をよく見ると、二人とも印象より若い。二十代半ばくらいだろうか。
「気分はどう?」
白衣の男性が訊いて来る。
「悪くは、ないです……」
僕はそう答えるのが精いっぱいだった。
声は少し掠れていたが、元々こういう声なのかも覚えていない。