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SS作品集
第1章 白い世界
「ここは、どこですか? どうして僕は、ここに……」
僕の言葉を遮るように、女性が笑顔を見せる。
「慌てなくても大丈夫よ。すぐに記憶を戻しますからね」
男性が、機械がついたヘルメットのようなものを持って来る。それを頭に被せられ、僕は目を瞑った。
抵抗したくても、何故か体が上手く動かせない。
少しずつ記憶が蘇ってくる。
僕は赤城和真(あかぎかずま)。東京に住む、21歳の大学生。家族は両親と三つ下の妹。
友達も多く、ごく普通だが楽しい毎日を過ごしていた。一つ歳下の彼女とも、仲良くやっている。
大学までバイクでの通学中に、信号無視をした大型トラックとぶつかった。
覚えているのはそこまで。
被っていたものを外され、僕は体を起こそうとした。だが腕に上手く力が入らず、男性が背中を押して手伝ってくれる。
「僕の家族は?」
自分が何日間寝ていたのか分からない。だが目を覚ましたのを知れば、家族が来てくれるだろう。
女性が軽く首を振る。
「車椅子に乗れる?」
「はい……」
体は動きづらかったが、二人に支えられながら何とか車椅子へ座った。
「じゃあ、行きましょうか」
「どこへ、ですか?」
「行けば分かる」
車椅子は電動式だったが男性が押してくれて、また何度か自動ドアを通りエレベーターに乗る。
《何階へ参りますか?》
エレベーターから音声が聞こえて驚いた。だが、記憶を戻すことが出来るくらいの高度な病院だ。最新のシステムなのだろう。音声認識はスマホにさえ付いている時代だ。
「屋上」
女性がはっきりした声で言うと、《屋上へ参ります》とエレベーターが答える。
屋上へ着くとすぐに壁があり、男性が首から下げていたカードを端の方に近付けると、ピッという音がして壁が左右に開いた。
先へ進むと、そこは円形の透明なドーム。
見えた外の景色は、雪が積もっていた。それも、尋常ではない量。
「ここは、何県ですか?」
「東京だよ」
今はやんでいるが、東京でこんなに雪が積もるのは珍しい。