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SS作品集
第6章 小さなラジオ
転校していったクラスメイトから、今まで仲良くしてくれたお礼だと言われ、小さなラジオをもらった。
仲良くしたといっても、特別に親しかったわけじゃない。彼は、中学2年生に進級してからの3ヶ月しか同じ学校にいなかったし。
僕はたまたま先生に頼まれて校内を案内したり、この町のことを詳しく話したりした。
本当にただそれだけ。
彼はいつも、日本史の本を熱心に読んでいた。休み時間に外でサッカーをやろうと誰かしら何度か誘ったが、運動は得意じゃないと言って毎回断られるから、そのうちに誰も誘わなくなってしまう。
やりたくなったらいつでもおいでよ。とは言っておいたが、最後まで彼は来ることなく転校していった。
彼から貰ったのは、ミニチュアかと思うくらいのちいさなラジオ。周波数を合わせるボタンやつまみも動かず、裏に爪の先で押さなければならないようなボタンがひとつあるだけ。
自室で期末テストの勉強に疲れた僕は、ベッドに寝転がった。
だから僕はダメなんだ。
小学校時代から勉強は苦手。中学生になったら頑張ろうと思っていたがムダだった。
小学校での基礎が出来ていない僕はすぐに落ちこぼれ、学年の順位も下から数えた方が早い。
ベッド横の棚に置いてあった小さなラジオを掴んだ。試しにボタンを爪で押してみると、流れてきたのは、ゆっくり話す優しい女性の声。
《……以上です。今お伝えしたのが、期末テストに出る問題です。もう一度繰り返します。国語。教科書22ページの……》
僕は急いで机に戻った。今勉強していたのが国語の22ページだったからだ。覚えやすい数字だから頭に残っていた。
《上から5行目の問い2。そして巻末の漢字表からは、上から3行目の……》
ラジオの言う通りに丸を付けて行く。
《教科書18ページの3行目の年号。以上です。今お伝えしたのが、期末テストに出る問題です。もう一度繰り返します。国語……》
ラジオの内容は繰り返される。