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SS作品集
第6章 小さなラジオ
次の夜は、昨日教科書に丸を付けたものを教科ごとに新品のノートへ写していく作業。
どうせ大して出来ないんだから、これだけでも覚えて損は無い。だが、昨夜丸を付けた場所は、5教科の試験範囲と一致している。
部屋のコンポに付いているラジオで、昨夜の放送を探してみた。だが、どこでも放送していない。第一、僕の学校の僕の学年に限って役立つ情報。そんなことをラジオで放送するだろうか。
普段ラジオは聴かないが、地元だけで流れている放送があるのは知っている。その類を流すラジオなのだろうか。
今はまだ正しい内容なのか解らないが、まずは勉強しておこう。
小さなラジオを手にしてから、10年が経った。
あの放送内容は正確で、最初はカンニングを疑われる始末。期末試験は3日間あり、初日の丸付けをした教科の出来が良すぎて、残り2日は監視が3人に増え、1人はいつも僕の傍を通っていた。
だが関係ない。僕はラジオで聞いた場所をしっかり覚えてスラスラと答案を書いていたから、監視の教師も驚いている様子だった。
それからもあの放送は、試験2週間前になると聞けるようになる。
一度夏休み中にボタンを押してみたが、ノイズしか聞こえなかった。
一部だけでも覚えると、勉強が楽しくなってくる。いい成績を取れば尚更だ。
中2の2月期からの僕は予習復習までするようになり、勉強が面白くなっていた。試験問題はラジオが教えてくれる。それに頼りつつも、不安で仕方なかった。
もし急に、あの放送が聞こえなくなったら。
どこにも側面にも電池などが入る場所が無く、充電も出来そうにない。もしもラジオが聞こえなくなってしまったら、と考えると気が気じゃない毎日。
そこで僕は考えた。もっと勉強して、このラジオの仕組みを調べるしかない。
中2から改めて始めた勉強だったが、ラジオのお蔭もあって成績はうなぎのぼり。するとまた楽しくなり、勉強を続けた。
成績はトップクラスまでになり、僕はある私立の進学高校を受験することに。すると受験日の2週間前に、ラジオは入試問題を教えてくれたのだ。