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SS作品集
第7章 道
私は道を歩いている。ずっとずっと歩き続けていていた。
どこまで続いているのか、自分にも解らない。たまに脇道があるが、真っ直ぐ歩いてさえいれば、迷う心配などいらなかった。
道は舗装されていなく、たまに小さな穴に出くわす時もある。だが、歩きづらいほどではない。
歩いているのは私だけ。人に会うこともなければ、見えることもなかった。
辺りは森とも草原とも違う。所々に美しい花が咲き、点々と立派な木も立っている。
私はただ歩き続けていた。
物心がついてから、ずっとこうやって進んでいる気がする。
普通の小学校、中学校に通い、高校も無理せずに済む普通のところを選んで合格した。大学も同じで、自分の学力に見合った普通のところで、見合った普通の学部を専攻。就職も特に希望は無く、受け入れてくれる普通のところへ入社した。
普通に仕事をして、そのうち普通に結婚して、今は子供も2人いる。そんな普通の生活に、何も不満など無かった。
“普通”とは何なのだろうか。ふと考える時もあるが、それが何であっても、私は“普通”で構わない。
家族が生活するための適度な収入。周りと同じような家に住み、それで家族みんなも満足している。
たまに贅沢はするが、それも“普通”の贅沢。
人と争うこともなく、ささやかだが幸せを感じることだってある。
歩き続けていると、時々雨が降ってくる。傘など無いので、そのまま歩き続けるしかない。雨も、そんなに強いものではない。
そのうちに陽が差し、自然と服や髪を乾かしてくれる。
前方に、大きくて高い岩があった。
登って進むことなどしない。少しの隙間を、体を横にして通れば問題は無かった。今までも、そうやってこの道を進んで来たからだ。
だが、歩きながらたまに考えることがある。
この道から一歩でも外れたら、私はどうなるのだろう。
道から外れた立ち木の下で休んだり、花を近くで眺めたとしたら。何が起こるか知るよしもなかった。