- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
SS作品集
第8章 主婦の鏡
夕飯の献立は何にしようかしら……。
主婦にこの悩みは付き物。
「アレはこないだ作ったし、アレも先週食べたわよね……」
つい、キッチンで独り言を言ってしまう。
「食材は何が残ってたかしら……」
大きな冷蔵庫を覗き込み、目ぼしい食材を探す。賞味期限や悪くなる前の野菜にも留意。
子供達が喜びそうで、夫も満足してくれるもの。自分など後回しでいい。
彼女は献立のために悩むが好き、といってもいいだろう。勿論洗濯や掃除も好きで、家族のために働くのが生きがいだと感じている。
正に主婦の鑑。
料理を作りながら洗い物をしていき、全て出来上がる頃には、残った洗い物は最後に使った鍋やフライパンだけ。
夜は完璧に片付けをし、戸締りを確認してから寝室へ。朝は誰よりも早く起き、朝食と2人の息子と夫の弁当を作り、みんなを玄関で見送る。
その後は「さてと!」ばかりに腕まくり。
洗濯は乾燥まで自動だが、その間に家中の掃除。
小さな埃も見逃さず、子供部屋から浴室やトイレまで、冬でも汗をかきながら懸命に綺麗にしていく。その後は乾燥が終了した洗濯物を綺麗に畳み、それぞれのタンスや引き出しに片付ける。
これだけで昼を過ぎ、やっと昨夜の残り物での昼食。
そして夕飯の準備をしようとしている今、献立について悩んでいる。
明日の朝食や弁当のことを考えると、やはり食材が足りない。
彼女は車で近所のスーパーへと向かった。
「母さん、そろそろ手作り弁当はいいよ。学食もあるし……」
夕飯の時、高校生の息子が遠慮がちに口を開く。
「僕も! みんなと同じがいいな。お母さん手作りの弁当を持って来るなんて、僕ともう1人だけだよ」
中学生の息子も言う。
「夕飯も、手料理なんかじゃなくていいんだよ。家に経済的余裕が無いと思われるし。おまえだって毎日大変だろう?」
夫にも言われ、彼女は食事の手を止めた。
「家中いつも綺麗だけど、全部おまえがやってるんだろ? そんな苦労をしなくてもいいのに」
確かに今は、全自動なのは洗濯機ばかりではない。