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SS作品集
第8章 主婦の鏡
食材さえ入れておけば種類別に冷蔵や冷凍保存し、食べたい物を調理してくれる家電。弁当を指定すれば、抗菌パックされたものが出てくる。それはご飯も炊き立てで、おかずも栄養バランスが整っている。
汚れた食器だってそう。食洗器にロボットが付いていて、洗い終わったものは、全て指定した場所へ片付けてくれる。
スイッチを入れれば、家中を綺麗にしてくれるロボット。床だけでなく壁や天井も這い回り、チリひとつ残さない。風呂やトイレは勿論。家具の隙間やどんな出っ張りがあったって、置き物の下だって、テレビ画面まで余すことなく掃除。
洗濯機と連動し、仕上がったものをきちんと畳んでくれ、設定をしておけば指定の場所へしまってくれるロボットもある。畳み方もそのスペースに合わせるよう、AI機能を搭載。
ロボットは音も静かで、赤ん坊がグッスリと眠れるほど。
自動調理家電のお蔭で、スーパーで売られる食品はどれもキロ単位。だからすぐ近所でも、車で行かなければ運んでこられない。
家事ロボットの価格も安くなり、確かに一般家庭が揃えられないものではなくなっている。
彼女が観たテレビのニュースによると、家事ロボットは全国95%の家庭に普及しているそうだ。
時間の出来た主婦は、何か習い事に通ったり、家で趣味にいそしむようになった。
「ねえお母さん、うちでも買おうよ。調理家電。パックされた弁当を持っていきたいよ」
中学生の息子が強請る。
彼女は別に、主婦の鑑と言われたいわけではない。
子供の頃に見ていた自分の母親の姿を尊敬し、憧れるようになっていた。
それなのに、こんな世の中になってしまうなんて。
「家事家電を揃えれば、空いた時間を、おまえの趣味に使えるようになるだろう?」
彼女は、テーブルに両手をついて立ち上がった。
「料理も洗濯も……。家事が私の趣味なの!!」
了
SFでよくある未来。
それで本当に、全ての人間が喜ぶのでしょうか……。