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SS作品集
第1章 白い世界
「分かる? あれはスカイツリーよ」
女性が指差した先には尖ったものが少しだけ見える。
「ええっ!?」
僕はそれ以上言葉が出なくなった。よく見ると、確かに建物が無い。
「あなたは、事故で脳死状態になったの。ご家族の要望で、この施設で冷凍睡眠に入ったのよ」
「冷凍、睡眠?」
「そして……」
今度は男性が話し始める。
「事故から1812年経った今日、全て完治して目を覚ました。五十年ほど前から、地球は氷河期に入ったそうだ」
「じゃあ、僕の、家族は……? 友達、は……?」
声が震えていた。
「1812年経ったのよ。分かるわよね?」
「そんな……」
1812年?
氷河期?
せっかく目を覚ましたのに、そんなことになっているなんて。
「私達は医師でもあるが、特別な教育を受けて、1800年前の言語を会得している」
「他のスタッフは話せない人が多いけど、私達が通訳しますからね」
1800年も経てば、言語が変わっていくのも仕方ない。
「あなたは、さっきの個室で自由に暮らしていいのよ。食事などは、勿論出ますから」
「それ相応の料金は、君の両親が払っている。何も心配はいらない」
そんなことを言われても、親兄弟も知り合いもいない上、言葉も通じないなんて。
この白い世界で、僕はいったいどうすればいいんだ?
了
家族の思いで冷凍睡眠で治療をした彼。
遥か未来に目覚めた彼は、どのような人生を送るのでしよう……。