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SS作品集
第13章 メール
会社から帰って気が付くと、パソコンにメールが届いている。
取り敢えずクリックしてみると、長文が続いていた。
怪しげな添付など無いから、大丈夫だろう。
もし最後にURLがあっても、それをクリックするほどバカじゃない。
IT関係の会社に勤め始めて3年。大会社ではないが、その代わりフレンドリーな雰囲気がいい。
だから、パソコンについては人より詳しい。
君は2895gで産まれた。桜華幼稚園に入り、年少の時に一度お漏らしをしたことがある。
何だ? これは。
僕は確かに桜華幼稚園に通っていたが、お漏らしした時のことは、何となくしか記憶に残っていない。年少といえば、まだ物心もつかない3歳の時の話だ。出生体重もそう。母親に訊けば両方解るかもしれないが、今は離れて住んでいる。
わざわざ電話をして確かめるのも面倒くさい。
桜華幼稚園年中の遠足で君は階段で転び、右足の膝から血を出して大泣きした。
これは覚えている。でもまだ4歳だ。大泣きしたって仕方ないだろう。
このメールは、同級生からだろうか。今更こんな昔のことを。
だが、なぜいきなりこんな内容を送ってきたのか不思議だ。
桜華幼稚園卒業前のお遊戯会でやったのは、桃太郎の劇で、君は何人かとキジの役をやった。
それは、もうさすがにはっきりと覚えている。
各役が数人いて、みんなで台詞を分け合って進めるのだ。
懐かしくなって少しの間思い出していたが、このメールは、いったい何を言いたいんだ?
最後まで読んだら、懐かしい友達の名前があるかもしれないが、そんな友達が僕のアドレスを知るはずがない。
君が南小学校に入学して、1年3組だった時に遠足があり……。
文章はまだまだ続いている。
高校生までを読んでみたが、全て身に覚えのあること。
だが高校時代、僕が密かに憧れていた女子の名前もあって驚いた。誰にも話した覚えはない。学年1の美人で性格も良く、本当に密かに想っていただけだ。
大体、幼稚園から高校まで一緒だったヤツはいない。
母親のイタズラだろうか?