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SS作品集
第17章 満員電車
いつもと同じ、帰宅時のラッシュアワー。
私は中央付近で人に挟まれながら、揺れをしのいでいた。
朝も夜も、いつもそう。
運よく座れたとしても、前に立っている乗客に足を踏まれたりする。
こんなにたくさんの人間が一度に移動するには、確かに便利かもしれない。それでも、つらいものはつらい。
最近の若者は、殆どがヘッドフォンなどをしている。聞こえてくるシャカシャカという音が耳障りだった。
だが、注意はしない。
今時の若者に注意して、殺されるような事件もニュースで観たことがある。
我々が若い頃は、電車内でも新聞を読んでいたのに。
定年退職まで後二年。
会社でも無難に仕事を熟し、特にこれといった成果は上げてはいない。でも大学を卒業してから今まで、真面目にコツコツとやって来た。
特に趣味もなく、とうに成人した娘達は地方へ嫁いで、私には孫も三人いる。
悠々自適とまではいかないが、日々の暮らしに困ることはなかった。
こうやって満員電車に揺られて、今まで頑張ってきたお蔭だ。
家庭を守ってくれている妻にも、感謝している。
子供を産み育て、手が掛からなくなった頃には、暇つぶしも兼ねてパートへ出ていた。そこでの仲間達とたまに食事へ行ったりするのも、息抜きになっていいだろう。それに対して、何の文句もなかった。
この年齢になって新婚当時のようにはいかないが、それなりに仲はいいと思っている。
そんなことを考えていると、急に大きく電車が揺れて止まった。急ブレーキのような金属音がしたから、事故かもしれない。
車内の照明が消え、周りの人々も騒めき出す。
外が暗いせいで、車内は闇に近かった。
電気系統のトラブルなのか、何も車内放送はない。
窓際の人達は外を見ているが、私からはあまりよく見えなかった。