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SS作品集
第17章 満員電車
長い停電の後灯りが点き、ノイズの混じった車内放送の音。
《当電車は、行き先を、変更、致します……》
その内容に、余計車内が騒めき出す。
人身事故でもあって、前の駅へ戻るのだろうか。そう思った時、電車が前へ動き出す。
すぐ隣の、若い女性が泣いていた。
小さなヘッドフォンをしているから、何か哀しい曲でも聴いているのだろうか。考えていると、その後ろの男性も泣いている。
反対側を見ると、男女問わず泣いている乗客が増えていく。
私も自然と泣いていた。
自分でも、何故だか分からない。
涙は止まることなく、どんどん溢れてくる。
その時悟った。
電車が事故に遭い、この車両の乗客全員が死亡したのだと。
妻の元へ戻ることも、もう娘達や孫にも会えない。
行き先は分からなかった。
今まで真面目に過ごしてきた私だ。
煙草も吸わず、酒は付き合い程度。勿論、ギャンブルや浮気なんてしたことがない。
地獄へ落ちて、酷い目に遭いはしないだろう。
でも、それでよかったのだろうか。
コツコツと働くだけで、何の趣味もない普通の人生。
こんな風に終えるなら、もっと遊んでおけばよかった。
了
平凡こそが、幸せかもしれません……。