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SS作品集
第19章 “夏”を探しに 風太

ボクはキッチンの床でゴロンゴロンしていた。
好きだった窓の所も、そこからジャンプした屋根の所も、最近熱くなってる。
お家の人達は、「“夏”が来た」って話してた。
お部屋の高い所にあるやつから風が吹いてくるから、お家の中は気持ちいいけど。
何だか退屈。
ポカポカで気持ち良かった春は、どこに行っちゃったんだろう。
春と夏は仲良しじゃないのかなぁ。夏が来たら、春はどこかに行っちゃったみたい。
ボクは、扉を開けることを覚えた。
おばあちゃんがいる部屋の扉を開けたら、「風太(ふうた)凄いねー」って褒められたんだ。
それから色んな所をやってみた。
ドアってやつはジャンプしてみるけど、まだ開ける所に届かない。でも何度もやってると、誰かが中から開けてくれる。
もう少し大きくなったら届くのに。
退屈すぎて欠伸が出る。
窓を開け、ボクは思い切って屋根にジャンプした。
足が熱いから、急いで塀へ降りる。
でも、何だか塀もあったかい。それにお日様のせいで、真っ黒なボクの背中が熱くなってくる。
いつもとは、反対側へ走った。
こっちには、まだ行ったことない。
また冒険だ。“夏”ってやつを見つけてやる。
でも、歩いてるだけで体が熱い。
ボクは一度、車の下に入った。
車は知ってる。お家の人と病院って所にいくのに乗るから。
病院って所は好きじゃない。先生って人は優しいけど、たまに痛いことをしたりする。
この前は、手術ってやつをした。眠くなったから寝て起きたら、オシリの所が少し痛かった。お家に帰って何回もお薬ってやつを飲まされたし。
もう病院って所には行きたくないなあ。
少し車の下で休んでたら、体の熱いのがなくなったから、道へ出て走った。
速く走れば、足もそんなに熱くない。
草がいっぱいの所に入ると、草が冷たくて気持ちよかった。でも、これは“夏”じゃない。草でゴロンゴロンするのは、いつも気持ちいいから。
また歩き出しして、知らないお家のお庭に入った。

