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SS作品集
第21章 資格
天気のいい日、彼女とドライブへ出かけた。
特に行く当ては決めていない。
取り敢えず景色の綺麗な海沿いがいいだろうと思い、近くの海を目指した。
「海が見えてきたよ。綺麗」
彼女も喜んでくれている。
今日はドライブの後僕のマンションへ行って、彼女が夕食を作ってくれる予定だ。
付き合いは一年を過ぎ、30代間近同士としてそれなりの大人の関係。
泊まっていくのもしばしばで、後には結婚も考えている。彼女も、そんなことを匂わせていた。
駐車場に車を停め、砂浜へと降りる。
歩きづらい砂浜を、彼女と手を繋いで歩いていた。
「助けて!!」
声が聞こえ、彼女と同時に足を止める。
海の方を見ると、子供が溺れていた。母親らしき女性が、波打ち際でオロオロしていた。
僕はすぐ上着を脱ぎ、海を進んで行く。ある程度まで深くなると、クロールで子供の元まで行った。
溺れている子供は、必死になってしがみついてくる。
泳ぎづらいが大丈夫。
僕はライフセーバーの免許を持っている。
子供を落ち着かせる言葉をかけながら、顔を水面から出すようにして砂浜へ辿り着いた。
「ありがとうございます!」
子供は女性にしがみつき、わんわん泣いている。
その様子なら、心配はいらないだろう。溺れて大量に水を飲めば、グッタリとしてしまうから。
女性に何度も礼を言われたが、名前は言わずに立ち去った。
彼女も誇らしげに見ている。
ライフセーバーとして、当たり前のことをしただけ。
車のトランクにあるタオルをシートの上に敷き、ファストファションの店へ行く。
下着から一式買い、濡れた服から着替えた。
「凄いね。頼りになるし、人助けだもんね」
彼女も喜んでいる。
そう言われると、少しの優越感は覚えてしまう。だからといって、自慢したりはしない。
あくまでも、ライフセーバーとして行動しただけだ。
その後は何ヶ所か名所を周り、楽しいデート。
結婚を早めようと考えていた。